「誰が言ったか知れねぇが、小股が切れ上がったとは美人のことでぇ」

…と江戸庶民が言ったかは知りませんが実際、江戸っ子が美人を指す言葉でした。

で、この「小股」っていったい何?

広辞苑では「女の脚が長くすらりとした粋な体つき」とありますが、江戸時代に背の高い女性がもてはやされたこともないですし、着物姿で足が長いかどうかはよくわからないですよね。


どれも決定打にかけますが、色々な説があるのです。

■足の親指と人差し指の付け根

井原西鶴の美人の定義に「足の指が反っていていて、扁平ではない」が含まれていました。

春画でも女性のオーガズムやよがっている様を、親指が反り、他の指がぐっと丸まっていることで表現していました。足袋の製造工程でも「小股を切る」といいます。このことから、足の指がぐっとしまっていることの例えでは、という説です。

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喜多川歌麿(願ひの糸ぐち)

現代も下腹に力をいれて筋トレする膣トレーニングがあるので、足の力が強いとあそこの膣も締まりがいいということなのかもしれません。

■花魁のような歩き方

花魁道中では「外八文字」といって、漆塗りの三枚歯の高下駄をはき、八の字を描くように半円を描きながらすり足でゆっくりと歩きました。この歩き方は簡単にはできないので稽古を重ねますが、まだ下手なうちは「股が切れない」といいました。

いい女の代名詞「小股の切れ上がった女」の”小股”って何?江戸時代の庶民文化から探る


喜多川歌麿(扇屋内 瀬川 おなみ めなみ)

このことから、花魁のように優美な動作や歩き方をする女性を指すのでは、という説です。

■着物の褄のことで、立ち居振る舞いのこと

永井荷風は「小褄のきりりとした女」を同義として捉えました。褄とは着物の裾 の左右両端の部分のことで、曰く「着物の着こなし上手で立ち居振る舞いが軽快、しかし色気があってしなやかな様子」と説明しています。

■単に股のことで、「小」をつけただけ

「小股」を大辞林第三版でひくと、「股の部分。
また、股に関するちょっとした動作にいう。」とあります。

江戸っ子は、大げさな表現をきらい、小をつけることで少し遠慮がちな表現をすることが多いです。

・小ざっぱり
・小ぎれい
・小ぎたない

…などなど。そのため小股も股そのものを指し、女陰そのものがしまっていい具合だということをぼかして表現したのでは、とも推測されます。

または臀部がきゅっと上がって、帯から下が脚長にすらりと見えたことなのかもしれません。

■ふくらはぎがしまっている様子

和服姿では足全体がみえることは稀のため、座ったり立ったりするときに着物の裾の隙間から見えるのはふくらはぎぐらいですよね。そのふくらはぎが着物の上に向かってすっと伸びて消えていく様子を、「切れ上がっている」と表現したという説です。

いずれにしてもぼってりした足では優美ではないので、細くしまっている様子だと思います。

いかがでしたか? 筆者は姿勢がよくお尻がきゅっと上がり、小股で歩いてしなやかな様子を想像しました。なんにせよ、体の直接の部位ではなく、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」のように動作が美しい人のことでしょう。

参考:江戸の春画を知りたい(学研)

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