そんな天正14年(1586年)、政敵として対立していた羽柴秀吉(演:ムロツヨシ)が自分の妹を家康に嫁がせました。
彼女の名前は旭姫(あさひひめ、旭日/朝日)。すでに他家へ嫁いでいたのを無理やり離縁させて、家康にあてがったといいます。
家康にしてみれば実にいい迷惑であり、彼女としても嫌だったことでしょう。
しかし当時天下人としての地位を固めつつあった秀吉には逆らえず、二人は渋々政略結婚に臨むのでした。
朝日姫(画像:Wikipedia)
……という訳で、今回はこちらの旭姫を紹介。果たして彼女は、幸せになれたのでしょうか。
■旭姫の生い立ち
旭姫は天文12年(1543年)、秀吉の異父妹(実妹説もあり)として尾張国中村で生まれました。
父は竹阿弥(ちくあみ。又は秀吉と同じ木下弥右衛門)、母は秀吉と同じ仲(なか。後に大政所)と言います。
実名は不詳。
成長して近郷の農家に嫁ぎますが、後に夫は出世した秀吉に召し抱えられ、武士の身分となりました。

晴れて武士になったものの……(イメージ)
夫は佐治日向守(さじ ひゅうがのかみ)と名乗ったとも、あるいは元から別の織田家臣・副田吉成(そえだ よしなり。甚兵衛)に嫁いでいたとの説もあります。
※織田家臣に嫁がせた方が、出世欲の塊だった秀吉らしく思います。あるいは、はじめ農家に嫁いでいたのを、出世のために無理やり離縁・再婚させたのかも?知れません。
この辺りは諸説あるようで、いずれにしても家康に嫁ぐ以前のことはよく分かっていないようです。
■徳川・羽柴両家の橋渡しを務める
さて、天正14年(1586年)に徳川家へ嫁がされた旭姫。秀吉は元夫(佐治日向守?副田吉成?)に慰謝料がわりに捨扶持の500石を与えます。
面目を潰された元夫は、これを恥じて自害したとも、出家遁世したとも言われます。いずれにしても、幸せな末路でなかったことは想像に難くありません。
話を戻して旭姫は4月に大坂城から京都の聚楽第に入り、浜松へ向けて5月に出発しました。
道中の護衛は浅野長政(あさの ながまさ)・滝川儀太夫(たきがわ ぎだゆう)・津田四郎左衛門(つだ しろうざゑもん)・富田知信(とだ とものぶ)そして織田長益(おだ ながます。織田有楽斎)に滝川雄利(かつとし)も加わり、150余名という大所帯。

旭姫の輿入れ(イメージ)
まさに鳴り物入りで浜松へ到着したのが5月14日。間もなく駿府へ移ったので、人々からは駿河御前(するがごぜん)と呼ばれました。
かくして秀吉の義弟となった家康。しかしなおも上洛≒臣従しなかったため、秀吉は徳川家に嫁いだ妹の様子伺いという名目で、母の大政所まで人質に出したのです。
ここまでされては流石の家康も意地を張ってはおれず、とうとう上洛して秀吉に臣従する態度を表明。小牧・長久手の合戦よりおよそ二年間の対立から和解したのでした。
■エピローグ
やがて大政所も解放され、天正16(1588年)になると今度は旭姫の方から母の病気見舞いに上洛。
病気がよくなったので一度は帰国したものの、再び上洛するとそのまま聚楽第に住むようになりました。
徳川家としても、別につなぎ止めておきたい訳ではなかったのでしょう。
そして天正18年(1590年)1月14日、旭姫47歳で世を去ったということです。
彼女は東福寺(京都府京都市。臨済宗)に葬られ、その法名を南明院殿光室宗王大禅尼(なんみょういんでんこうしつそうおうだいぜんに)と言います。

瑞龍寺にある朝日姫の墓。画像:Wikipedia(Halowand氏)
一方で家康は駿府の瑞龍寺(曹洞宗)にも旭姫の墓を作っており、こちらの法名は南明院殿光室総旭大姉(なんみょういんでんこうしつそうきょくだいし)とのこと。
彼女自身は臨済宗に帰依していたのに対して、家康としては曹洞宗を推していたようです。
もしかしたら、家康としては政略結婚ながら正室であった彼女に対して、一定の愛情を寄せていたのかも知れませんね。
■終わりに

家康と旭。二人の関係がどのように描かれるのか、楽しみである(イメージ)
兄の野望に振り回される妹以上、旭姫の生涯をたどってきました。果たしてNHK大河ドラマ「どうする家康」ではどのようなキャラクターに描かれるのでしょうか。
旭 あさひ
[山田真歩 やまだはも]
家康を屈服させたい兄・秀吉の思惑で夫と離縁させられ、人質として家康のもとへ嫁ぎ、正妻となる。田舎育ちの純朴な心優しい女性で、自分の役目を全うしようと、懸命に家康に尽くす。
※NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイト(登場人物)より。
単なる政略のコマとしてではない、彼女の人間的な魅力も描いてくれると嬉しいですね。
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 後編』NHK出版、2023年5月
- 小和田哲男ら編『豊臣秀吉事典 コンパクト版』新人物往来社、2007年6月
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