戦国乱世、日本各地の戦場で上がった鬨(とき)の声。
命がけの戦いを制し、敵に勝利した喜びが込められた勝鬨(かちどき)は、時代劇でも風物詩となっています。
ところでこの鬨の声、何となく「大将が音頭をとって、周囲がめいめい同調する」イメージがありますが、実際には作法があったそうです。
また、合戦に勝利した時だけでなく、敵と戦う前にも上げたといいます。
そこで今回は、鬨の声に関する作法を紹介。皆さんも、運動会などで真似てみても楽しいかも知れません。
■出陣前に「鬨をつくる」
出陣前に、鬨をつくる。えい、えい、おう!(イメージ)
まず、出陣前や戦闘前に気勢を上げる鬨の声を「鬨をつくる」と言い、勝利を祈願して行われます。
かけ声は「えい、えい、おう」と陣立ての左から始まり、徐々に右へつなぎました。スポーツ観戦のウェーブみたいなイメージですね。
これは陰陽の思想に基づくもので、左(陽)から右(陰)へ天地の気がめぐり、調和するという吉事を演出していました。
声の調子ははじめ低く弱く、次第に高く強くしていくのが理想とされます。
さぁ、これから決戦が始まる……スポーツ大会前の国歌斉唱に似た厳かさと、闘志が解き放たれるカタルシスが感じられますね。
■勝利して「勝鬨を上げる」

焼け落ちる敵の城、上がる勝鬨(イメージ)
一方で、勝鬨は「上げる」ものです。
これを受けて、全軍が一斉に「えい、えい、おう」と応じました。この時、声の調子は出陣前とは逆に、強く高い声から次第に低く弱くいきます。
鬨をつくることで軍神を天からお招きしたのに対して、勝鬨を上げることで御加護に感謝し、天へ奏送(お送り)する意味があるようです。
ちなみに、勝鬨は戦術として上げられることも往々にあったと言います。例えば『北条五代記』では風魔小太郎(ふうま こたろう)が敵地に潜入、各所で勝鬨を上げることで敵の動揺を誘ったのでした。
どこからともなく鬨の声が聞こえ、敵が気勢を上げていれば「もしかして、味方は不利or負けたのでは?」と不安になってしまうのが人情というもの。
たとえいきなり敵の勝鬨が聞こえても、冷静に戦況を分析したいものです。
■終わりに
以上、合戦における鬨の声について紹介してきました。
今回ここで紹介したのはほんの一部。大名家や兵法の流派ごとにそれぞれ違うと言います。
※参考文献:
- 稲垣史生 編『戦国武家事典』青蛙房、1981年7月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan