なんと日本国籍の方もいて、その方は武田秀太郎さん。2022年、日本国籍の人としては90年ぶりに選出されました。
マルタ騎士団の国旗(パブリック・ドメイン、Wikipediaより)。後述する聖ヨハネ騎士の旗とデザインはほぼ同じですね。

■成り立ちは?
11世紀、十字軍の時代に、医療奉仕をするために結成されました。十字軍は、ヨーロッパ諸国が聖地奪還のためエルサレムの地に派遣した軍隊ですね。
そのとき巡礼者や病人を保護するため、「洗礼者ヨハネ修道院」の跡地に病院兼宿泊所を設立した組織が「聖ヨハネ騎士団」で、それがマルタ騎士団の前身です。そこには国籍を超えて奉仕活動に従事する者が集まりました。
13世紀には地中海のロードス島やマルタ島が拠点となり、16世紀ごろは独立国として認知されていましたが、18世紀、ナポレオン軍に追われて領土を失ってしまいます。
しかし活動は絶えることなく、現在はイタリアを本部として全世界で1万3500名の騎士がいます。

第1回十字軍によるアンティオキア攻囲戦(パブリック・ドメイン、Wikipediaより)

城壁を守る聖ヨハネ騎士マチュー・ド・クレルモン(1845年、ドミニク・ルイ・パプティ作)
独自の憲法や通貨や切手があり、外交や公用に携わる者(大使、公使など)のみパスポートも発行されるとか。
■どうやったらなれる?
一般的にあまり知られていない「マルタ騎士団」。どうやったら「騎士」になれるのか不思議ですよね。
・カトリックを信仰していること
・慈善活動に従事していること
・2人以上の騎士から推薦があること
が最低限の条件とのこと。推薦されても、1年間は騎士団の慈善活動にかかわりながら審査されるそうです。いわば見習い期間といえるでしょう。武田さんはウィーンで国連職員として働いているときに、同僚から入団をもちかけられ、騎士の方と面会の上、推薦されることになったそうです。
騎士団には三階級が存在します。原則として全ての騎士は第三階級に叙任された後、実績に合わせ昇格していくそうです。
●第三階級
ナイト・オブ・オナー・アンド・デヴォーション(名誉と献身の騎士)
ナイト・オブ・グレース・アンド・デヴォーション(慈愛と献身の騎士)
ナイト・オブ・マジストラル・グレース(主の恩寵の騎士)
●第二階級(上級騎士)
ナイト・イン・オヴィディエンス(忠誠の騎士)
●第一階級(最上級騎士)
ナイト・オブ・ジャスティス(正義の騎士)
おおっ!なんともかっこいい響きですね。ナイト・オブ・ジャスティス!どこぞの漫画の世界のよう…。
マルタ騎士団は国連総会のオブザーバーや、ロシアのウクライナ侵攻の際に救助隊を派遣するなど活躍していますが、残念ながら日本とはまだ国交が結ばれていないそうです。
■日本で初めての騎士は?

山本信次郎(パプリック・ドメイン、Wikipediaより)
日本人として90年ぶり…ということは過去にも騎士がいたということ。
初めて騎士になったとされるのは、東郷平八郎の副官を務めた旧帝国海軍軍人・山本信次郎。「軍服の修道士」といわれ、昭和天皇とローマ法王の会見に尽力した人物です。
フランス語やイタリア語に堪能、イタリア大使館付武官などをつとめ、大正10年の皇太子(のちの昭和天皇)の外遊に随行し、当時のローマ教皇・ベネディクト15世との橋渡しをしました。まだ皇太子が20歳だったときのことです。
若い時から熱心なカトリック教徒であった山本は、その後も青少年教育や社会事業に従事します。いつマルタ騎士団に入団したかは定かではありませんが、武田さんも一人目は山本信次郎さんと言及しています。
自分から地位を求めず献身的な活動を認めらて初めて資格をえる「マルタ騎士団」。今後彼らの活躍に注目してみてはいかがでしょうか。
マルタ騎士団
参考:『マルタ騎士団 知られざる領土なき独立国(武田秀太郎著、中央公論新社)』
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