ヨーロッパ発祥のように見えて、実は日本発祥だったという「洋菓子」は少なくありません。
例えばミルクレープがそうで、あれは名前もフランス語なのでフランス生まれのようですが、日本で最初に作られたものです。
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さて、老若男女に関係なく昔から愛されている、スポンジケーキと生クリームを重ねて苺を乗せた「あのスタイル」のショートケーキもまた、極めて日本的なものです。原型は西欧のショートケーキなのですが、日本のショートケーキはかなり日本人向けにアレンジされています。

いちごのショートケーキ
こうした「日本的な」ショートケーキを最初に開発したのは、かの不二家だと言われています。
不二家の創業者は藤井林右衛門氏ですが、彼はアメリカの洋菓子市場で(西欧風)ショートケーキを目にしました。それは、ビスケット生地とクリームを重ねて、さらに苺を乗せたものでした。1912年のことです。
この時、彼が目にしたサクサクのビスケット生地とクリームという組み合わせは、どちらかというとミルフィーユやビスケットサンドに近い感じがしますね。
ともあれ、藤井はこのケーキを日本人の口に合うようにアレンジします。そうして1922年に発売されたものが、日本的ショートケーキのはしりとなりました。
ちなみにショートケーキの「ショート」の語源についてはさまざまな説があります。短くカットして食べることや工程が短いことを指してShortと呼ぶようになったという説もあれば、いやいやShortは食感を表す言葉だという説、あるいはショートニングに由来するという説もあります。
■一役買ったカステラ
さらに1924年にはコロンバンも創業。創業者は門倉國輝氏で、彼はフランスで本格的に菓子作りを学んだ人物です。
この1920年代初頭というのは、ショートケーキのような洋菓子が流行になりつつあったのかも知れません。門倉も、日本人向けの洋菓子を作る必要性を強く感じるようになりました。そしてやはり、ショートケーキを開発します。
面白いのは、この二人の日本人が日本向けショートケーキを開発するにあたり、参考にしていたお菓子があったという点です。それはカステラでした。
実は、発売されたばかりの不二家のショートケーキは、土台にカステラ生地が用いられていたと記録されているのです。また、コロンバンの場合もカステラそのものではないものの、全卵に同じ量の卵黄を加えるという、カステラに近い生地を使っていました。

カステラ
カステラはご承知の通りポルトガル由来のお菓子ですが、日本人がアレンジにアレンジを加えて今の形になったという歴史があります。
それはもはやほとんど原型はとどめていないと言ってもよく、カステラという発音のお菓子も、発祥地たるポルトガルには存在しません。カステラはほぼ完全に日本のお菓子と言ってもいいでしょう。
既にこの段階で、ショートケーキは「日本化」していました。
■クリーム・食感・そして色彩
さて、日本式ショートケーキはさらに進化していきます。
1924年には業務用生クリームの生産がスタートしました。新橋で牧場を営んでいた中沢乳業によるものでした。
コロンバンは、創業時には銀座に店を構えており、やはりこの中沢乳業の乳製品を使っていたそうです。
ただ保存が利かないことから、生クリームを用いたケーキはまだまだ高級品扱いでした。家庭向けの冷蔵庫が普及し、ケーキの売れ筋がバタークリームから生クリームへと移り変わっていったのは1950年代前後のことです。

バタークリームを使ったケーキ
ちなみに、このようにあえてバタークリーム使用のケーキから生クリーム使用のケーキへとシフトしたのも、日本ならではの理由があります。
欧米は日本より乾燥しているので、歯ごたえのある生地やバタークリームの濃厚さが好まれる傾向にあります。一方の日本は湿潤で、柔らかい食感と口どけのよさが好まれるのです。
さらに日本人の精神性として、白地に赤の組み合わせにはめでたい、非日常のイメージがあります。いちごの赤と白色の生クリームの組み合わせは、色彩的にも極めて日本人向けだったと言えるでしょう。

記事はクリスピーなものよりもカステラ風のものへ、クリームもバタークリームから、ソフトで赤いいちごが映える生クリームへ。ショートケーキは、実はどこから見てもとても日本的な洋菓子なのです。
海外では、こうした日本式ショートケーキはJapanese Strawberry Shortcakeと呼ばれています。
参考資料:
家庭画報.com
クラシル
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan