「三種の神器」とは、皇位のしるしとして天皇に代々継承されてきた三種類の宝物です。
Wikipediaより「三種の神器」(画像は想像図であり、実物は非公開)
しかしこれらの名前存在は多くの人に知られているものの、現在どこにあるのか、観ることは可能なのかどうかについてはしっかり認知されているとは言い難いところがあります。
今回は、この三種の神器の概要と、その現況について説明しましょう。
三種の神器のラインナップは「八尺瓊勾玉」(やさかにのまがたま)、「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)、「八咫鏡」(やたのかがみ)の三つで、いずれも天孫降臨とともに天照大神から授与されたと伝えられてきました。
それぞれ、剣は神の鎮座の象徴であり、鏡は太陽神の来臨を意味し、勾玉は月神の象徴とされています。
ところで、もともと古代においては、天皇家以外の権力者も鏡・玉・剣を支配権の象徴として用いていました。
しかしそれが天皇特有のしるしになったのは、七世紀頃のことだと考えられています。新天皇がそれぞれ神の象徴である三種の神器を受け継ぐことによって、神聖体となったことを象徴するようになったのです。
そして、これらの神器を継承した王が太陽神のように陸を統治し、月神のように海を統治することができるとされました。これを踏まえ、律令にも三種の神器が皇位継承のしるしであると明記されるようになったのです。
■名実ともに「三種の神器」に
もっとも、三種の神器が皇位継承のしるしとして周囲の人々に強く意識されるようになったのは、14世紀半ばの南北朝時代以降のことです。
当時は皇位の正当性が問題になった時代だっただけに、皇位継承のしるしを受け継いでいるかどうかが大きな政治的争点になったのでした。

1989年〈昭和64年〉1月7日、第125代天皇(明仁)皇位継承時の剣璽等承継の儀(Wikipediaより)
そんなこともあって、「三種の神器」という言葉自体は古文書である古事記・日本書紀などには使われておらず、日本書紀では「三種宝物」という言葉で称されています。
名実ともに、三つの神器が「三種の神器」となったのは、意外と後になってからの話なんですね。
■神器は現在どこにある?
八咫鏡については、日本神話によると天照大神が「鏡を私だと思って祀りなさい」と邇邇芸命(ニニギノミコト)に授けたことから、鏡と天皇は共に同じ屋根の下に住んで起居を共にするものと考えられていました。
そのため現在も、三種の神器は皇居宮中三殿のひとつである賢所に鎮座していますが、本体は八尺瓊勾玉のみです。草薙剣と八咫鏡は「写し」と「分身」であり、本体は先述の通り別の場所にあります。
というわけで現在、八尺瓊勾玉は皇居にあるわけですが、八咫鏡は伊勢神宮(三重県伊勢神宮)に、そして草薙剣は熱田神宮(愛知県名古屋市)に神体として奉斎されています。

草薙神剣を神体とする天照大神を祀っている熱田神宮
ただし、直接観ることは正式な継承者である天皇ですら禁じられています。そのため、本当に存在しているのかどうかを確認する術はなく、三種の神器は実質的に「幻の神器」となっているのが実情です。
参考資料:歴史の謎研究会『舞台裏から歴史を読む雑学で日本全史』2022年、株式会社青春出版社
画像:Wikipedia
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