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実は彼、「誹風柳多留(はいふうやなぎだる)」という当時の人気川柳雑誌に投稿するのが趣味で、掲載された数なんと188句。
多才な北斎の川柳の腕前は趣味の域を超えており、一度は「誹風柳多留」の序文まで任されたほど。今回は川柳界でも一流だった北斎の川柳を一部ご紹介します。
絵には描けない悩める北斎の姿
「我(わが)ものを 握る片手の ぬくめ鳥」
ただの下ネタと片付けるには惜しい温かみを感じませんか?北斎先生、どうやら絵の事で悩んでいるようです。頭の中にあるものをそのままごっそり筆に乗せて描き尽くしたいが、どうしたものか筆がちっとも動かない。
そのうちに墨がぽたっと白い紙の上に垂れてしまったりして。そんな時はつい反対の手で股間をにぎにぎ。鳥が羽で雛を温めるように優しく優しく。
浮世絵と真っ直ぐ差し向かう北斎の、人には見せない姿が見えてきます。
「天才だってなんだって、悩みも行き詰まりもすらア」というぼやきが聞こえそうな愛おしい一句です。

「気違ひの とらまえたがる 稲光(いなびかり)」
真っ黒な雲の上でゴロゴロ音が鳴り始めると、外にいる人はみんな笠を押さえて逃げ出すってのに、嬉々として家から飛び出してきたジジイが1人。
そのとんだジジイこそ、北斎その人です。
ピカピカッと来てドオン。

一瞬の風景を愛おしむ
「田毎田毎 月に蓋する薄氷」
ここは信濃の姥捨山のふもと。小さな水田の一つ一つに月が宿る名所です。そんな月を閉じ込めるように、田には薄い氷が張っています。なんてロマンチック!
本当に北斎じいさんが書いたの?いつもの助平心はどこへ行ったの!?と訊きたくなるような句です。とはいえ、さすがは北斎。これほど繊細に風景を感受する心があったからこそ、自然が織りなす一瞬のロマンスを逃さず絵の中に閉じ込める事ができたのでしょう。月に蓋する薄氷のように。
ちなみに田毎の月に関しては、歌川広重が素晴らしい絵を描いています。

「八の字のふんばり強し 夏の富士」
なんとも健やかで爽快感のある一句です。とろけそうに暑い夏の日にも、赤い地肌をむき出しにし、八の字に足を広げて踏ん張る富士の強さ、めでたさよ。
手に取る人の心の憂さを吹き飛ばして笑顔にしてくれる、まるで浮世絵みたいな川柳。まさに、北斎にしか詠めない「北斎川柳」です。

おまけ 辞世の句
「ひと魂でゆく気散じや 夏の原」
枷になる邪魔な身体は置いていって、俺ア魂だけで気晴らしの夏休み旅行に出発するぜ!いやっほうい!と大盛り上がりで逝った北斎じいさんなのでした。享年90歳。

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