■江戸時代のキスの作法って?
江戸時代におけるキスの作法って、どんなものだと思いますか?これが意外と大胆なのです。
「吸口軒(ぎうこうけん)」という場面では、キスの作法についてこれでもかというくらい懇切丁寧に説明しています。「寝室にいるとき、まず女に優しくまとわりついて好色の心地よい物語を話し、ムードを高めてから口を吸うべし。その際に男の舌を女に吸わせてはならない」とあります。
画:葛飾北斎
まだまだ、キスの作法は続きます。「女の舌を出させて男の口の中に取り込んで、歯が当たらないよう唇で女の舌を抜いてしゃぶるようにしなさい」と。
この通りにやれば、女もみだらな気分になると説いています。そういえば、江戸時代の春画でも、男女の交わりと同じように口吸いの場面も多いですよね。当時は、キスといわず口吸いといい、文字通り、口を吸うのです。ポイントは、舌の接触吸引とのこと。
なんだかとっても生々しいですね。それと同時に口吸いは、切ないものでもあったのです。菱川師宣の春本「恋のむつごと四十八手」に、そんな切ない口吸いが描かれています。人目を忍び女に会いにきた男が、明け方になったのでやむを得ず立ち去ろうとしたとき、女が引き留めて名残惜しく口吸いをする場面「明別(あけのわかれ)」が、とても美しく印象的。交わりの後に愛情を確かめる方法が、口吸いでもあったのですね。
■遊女の間での呼び方は?
ちなみに、吉原ではキスのことをおさしみと呼んでいたそう。鮮度のいいお刺身に例えられるくらい、遊女とのキスは貴重なものでした。
おさしみというのは客目線のときだけ。遊女たちの間では、手付けやきまりと呼んでいたそう。客にとっては遊女とのキスは夢見心地だけど、遊女にとってはあくまでも仕事なのです。
キスといわずに口吸いやおさしみという江戸時代、当時のその様子を垣間見てみたくなりますね。
参考文献:堀江 宏樹(2015)『三大遊郭』幻冬舎新書.
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