同じように、日本の妖怪(または神)である天狗にも、苦手とする食べ物があるというのです。
それが青魚なんだとか。
■江戸時代に多発した天狗攫い
『西京新聞』より、兵庫県で起きたとされる天狗攫い
不思議なことや奇妙なことを妖怪や神のしわざとするのは古くからあることで、江戸時代ごろは子どもが突然いなくなってしまうことを「天狗攫い(てんぐさらい)」と呼びました。「神隠し」と同じかどわかしですね。
子どもはそのまま永遠にいなくなるのではなく、ある一定の期間を置くと戻ってきたそうです。その際、どうしていたのかと聞くと「各地を巡っていろんなところを見た」などと話すのだそう。
大人はこれを不思議がって、「天狗に攫われたのだ」と話す子どものあり得ない話を信じざるを得なかったようです。
■「鯖食った」と大声で言うと難を逃れる?

『美勇水滸傳』木曽駒若丸義仲に鼻を摑まれた天狗(一魁芳年筆)
長野あたりでは、天狗は鯖が嫌いだと信じられているといいます。子どもが突然いなくなったとき、人々は天狗に攫われたのだろうと探し回りますが、「鯖を食った○○(少年の名前)はおらんか」と大声で呼んでまわると、少年はどこからか戻ってきたと伝わっています。

月岡芳年 「芳年略画 天狗之世界」
天狗は大の鯖嫌いで、攫った子どもが鯖を食べたと知ると放り出したというのです。
■天狗攫いは男色との関わりも?
江戸時代、男色は武家社会だけでなく庶民の間でも広まっていたと言います。男色専門の茶屋「陰間茶屋」まであったほど。
茶屋で売春?男色を売る男娼までいた?江戸時代には色んなタイプの茶屋があった
江戸時代以前の男色は決して「快楽のため」だけではない?恒例の儀式や同志の契りを交わす意味も大きかった
実はこの天狗攫いも、当時から少年を攫ったのはそれが原因だと考えられていました。
実際に少年を攫うのは修験者などで、少年たちはそれについて回っていたので各地を巡って目にしていたのだとか。
少年が数か月や数年のうちに帰されるというのも、陰間は花魁に比べて花の盛りの時期が短いといいますが、まさに春の短い少年だからこそでしょう。
人々は少年がいなくなったらまず「鯖を食った○○ー!」と大声で呼びまわり、天狗から少年を守ろうとしたのでした。
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