台風や地震などの災害が起こると、自治体の担当者より早く被災地に駆けつけることもある、とさえ言われるのが詐欺師の面々だ。

被災した住宅の修繕費用などをだまし取るためだ。

毎年、被災地では数千件単位の被害が発生しており、台風シーズンを迎えた2022年6月16日、国民生活センターが「被災地は特に注意!災害後の住宅修理トラブル」という警告リポートを発表した。

困っている人の弱みに付け込む悪らつな手口とは――。

大声で暴言、2時間も修繕を迫る

まずは、図表を見ていただこう。全国の消費生活センターに寄せられた、2017年~2021年の5年間に発生した主な台風・豪雨・地震・豪雪の被災地域で起きた住宅修繕トラブルをめぐる被害件数だ。

これを見ると、災害が起こるたびに数千件単位で被害が発生しており、全国各地から悪質業者が被災地めがけて殺到する様子がうかがえる。被災地に入り、後片付けを手伝ったりしながら、甘い口ぶりで住宅修理などを持ちかけるのだ。

業者たちの手口もさまざまだ。国民生活センターが挙げる事例を見ていこう。まずは、あまりに強引な勧誘から――。

【事例1】「すぐに直さなければ雨漏りする!」と3人が大声で暴言、2時間以上、執拗に工事を勧めてきた
 「すぐに直さなければ雨漏りする。天井にカビが生えていないか」と訪問してきた事業者に屋根工事を勧められた。台風で被害を受け、大規模修繕工事をしたばかりなので、「不具合があれば工事した事業者に相談する」と断ると、大声で暴言を吐かれた。

最初は営業員1人だったが、営業車の中から次々と出てきて、3人から2時間以上、執拗な勧誘を受けて恐怖を感じた。近所の人に助けを求め、やっと帰ってもらった。(2021年11月・60歳代男性)

また、不安をあおって高額な契約を結ばせるのも常とう手段だ。

【事例2】不安をあおられて、次々と高額の屋根修理工事を契約する羽目に
 自宅を訪問した事業者が台風で傷んだ屋根を見て「今直さないと大変なことになる。直しておけば、まだ住める。瓦下地の3割は傷みが激しく、修繕費用が高額になる」と不安をあおってきた。


 住む場所がなくなっては大変と思い、約65万円の修繕契約をした。その後、残りの瓦の写真も見せられ、「全部直すほうが長く住める」と言われ、3日後に約50万円の追加の修繕契約をした。
 しかし、自宅の防犯カメラの記録を見たら、説明を受けた工事内容が行われていなかった。すでに約50万円を支払ったが、見積書・工事請負契約書面も不可解なところがあり、残金を支払いたくない。(2021年5月・50歳代女性)

なお、国民生活センターによると、業者が見せたという「残りの瓦」の損傷は、自宅以外の壊れた瓦の写真を見せられた可能性があるという。

工事がずさん、遅い、高いの「悪質3拍子」

【事例3】「今度地震が来ると倒壊する」と脅されて解体工事をしたが、見積金額より高い工事費に
 数か月前の地震で自宅の外壁にひび割れが生じた。

半壊の認定が出たので、知人から紹介された事業者に見積もりを出してもらった。契約書を交わさず外壁補修工事が始まると、半壊認定されていなかった車庫に予想外のひびが入っていることがわかった。
 事業者から、「今度、大きな地震がくると車庫が倒れる可能性がある。車庫が倒れて人に怪我をさせたら、所有者の責任になる」と不安をあおられ、解体工事を勧められ依頼した。工事完了後に見積金額よりも50万円高い約140万円を請求され納得いかない。(2021年11月・50歳代女性)

さらに、修理工事が杜撰(ずさん)とくるから、踏んだり蹴ったりだ。

【事例4】塗装工事の内容が杜撰なうえ、工事完了も大幅に遅れている
 「屋根に不具合がある」と事業者が訪問してきた。一昨年の台風で実際に雨漏りが発生しており、屋根の塗装工事をすることにした。しかし、工事完了が当初決めた日から大幅に遅れたうえ、塗装工事の内容も杜撰だったため、やり直しの工事が必要になった。事業者の都合で工事が遅れて、足場の解体に時間がかかっているにもかかわらず、足場の代金も高額である。(2021年9月・50歳代女性)

「公的機関からの委託を受けた」とだまして、点検にくる事業者も後を絶たない。

【事例5】県の防災部署から委託されていると電話があり、県に確認すると無関係だった
 「県の防災部署から委託されている。

先日地震があったので点検に伺いたい」と電話があり、母は何も考えずに訪問を承諾してしまったそうだ。昨日、この話を聞いて不審に思い、県の担当部署に尋ねると、そのような事業は行っていないことがわかった。(2022年3月・80歳代女性の子ども)

「保険金を使える」と言われたら詐欺を疑おう

なかでも、一番危険な手口が「保険金が使える」と言って勧誘するケースだ。

【事例6】先月の雪害により雨どいが壊れていると言われ、保険金の申請サポート契約をした
 「先日の雪による被害を見に行きたい」と事業者から電話があった。訪問を了承すると、事業者が来訪して雨どいの写真を撮り、「先日の雪で壊れている、火災保険を使えば追加費用なしで修理できる」と修繕工事を勧められた。火災保険請求の流れについて説明を受け、渡された書面に署名した。
 あとで書面を見たら、工事をしない場合には受け取った保険金の50%を支払う旨が書かれていることに気が付いた。そもそも雨どいが壊れているようには見えないし、見積書も渡されていない。おかしいと思うので解約したい。(2022年2月・80歳代男性)

【事例7】保険金で自己負担なく修理できると言われ、保険会社に聞くと...
 事業者の訪問を受け、次のように説明された。「雨どいが壊れている。2年前の台風で壊れたのであれば火災保険で修繕でき、自己負担はない」「保険金が出たら50%を手数料として当社が受け取る。残りの保険金で修繕するなり他に使うなりしていい」。自己負担がないのならと、保険金の申請サポート契約をした。
 担当者から「この後、工務店が来訪するので、修理箇所の見積もりを取り、その後保険会社に連絡するように」と言われ、保険会社に連絡した。すると、「最近このような話が多い。消費生活センターに相談するように」と言われた。(2021年12月・40歳代男性)

国民生活センターでは、こうアドバイスしている。

(1)契約を迫られても、その場では契約せず、複数の事業者で見積もりを取るなど、比較検討をする。修理が必要ない場合は、きっぱりと断る。

(2)契約する際には工期や費用を十分確認する。工事の品質のサンプルを見せてもらい、工事延期、やり直しの場合の取り決めを事前にする。

なかでも、とりわけ注意が必要なのは「保険金を使える」と言って、50%などの手数料をだまし取る手口だ。「詐欺の共犯になりますよ」と、こう呼びかけている=イラスト参照。

(3)「保険を使って自己負担なく修理できる」「申請サポートをする」と勧誘されたら要注意!

そういった場合は、詐欺を疑おう。保険金を請求できる権利は、3年を経過すると時効によって消滅すると定められており、経年劣化など自然災害によらない住宅の損害は保険の対象外。仮に、ウソの理由で保険金を請求すると、消費者自身が知らないうちに刑事罰(詐欺罪)に問われるおそれもある。

保険金の請求でわからないことがあれば、加入先の保険会社や保険代理店に相談しよう。

(福田和郎)