急激な円安が止まらない。先週末の2023年6月22~23日にかけて外国為替市場では、ドル買い・円売りが続き、一時、1ドル=143円87銭と、昨年11月以来の水準にまで円安が進んだ。

こうしたなか、財務省の神田真人財務官が6月26日、「行き過ぎた動きには適切に対応する」と為替介入に言及した

政府・日本銀行によるドル売り・円買いの為替介入はあるのか。また、その効果があがるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

急激な円安の背景に、欧州各中銀の「サプライズ利上げ」

報道をまとめると、財務省の神田真人財務官は6月26日朝、財務省内で記者団の質問に答えるかたちで、為替相場を巡ってこう語った。

「為替相場はファンダメンタルズを反映して、安定的に推移することが望ましいことは言うまでもない」
「足元の動きは急速で一方的だ。高い緊張感を持って注視するとともに、行き過ぎた動きには適切に対応していく」

そして、足元の為替相場の動きについて、「必ずしも合理的ではない動きがあるという声もある」との見方を示し、記者団から「円買い介入はあるのか」と問われると、「どんなオプションも排除しているわけではない」と強調した。

さらに、介入する水準についてはこう述べた。

「水準ではなく、過度な変動があった場合に経済の主体が対応できなくなり、迷惑になる。投機的な動きで経済活動が邪魔されることはよくない」

これまで、鈴木俊一財務相が為替動向については、「為替の動向を注視している」「必要であれば適切に対応していく」などの発言にとどめていただけに、神田財務官は、週末の急激な円安進行を受けて一歩踏み込み、介入を辞さないような姿勢を鮮明にしたかたちだ。

ただし、この「口先介入」の効果は限定的だった。26日朝の東京外国為替市場では、円が対ドルで1ドル=143円70銭近辺につけていたが、神田財務官の発言後、143円50銭前後にわずかに上昇しただけだった。

政府・日銀は昨年(2022年)9月、円が一時1ドル=145円台後半まで急伸した時に、24年ぶりの円買い介入に踏み切った。

10月には151円台後半と約32年ぶりの円安水準に達した段階で、再び介入を行ったとされる。これを受けて現在、市場では145円と150円の水準が介入警戒ラインとして意識されている。

また、6月22~23日の急激な円安加速の背景には、欧州の各中央銀行の「サプライズ利上げ」を指摘する見方がある。イングランド銀行が0.5%という大幅な利上げを発表。ノルウェー中央銀行も利上げを決め、スイス国立銀行も利上げを決め、さらに追加利上げを示唆した。

折しも、米国議会ではパウエルFRB議長が、追加利上げ2回の可能性を強調していた。

すでに欧州中央銀行(ECB)、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、スウェーデンなども利上げを決めており、「利上げラッシュ」が続く世界の中央銀行の中で、日本と中国だけが緩和を続けている。

当然、金利差が意識され、円が売られる状態になっているわけだ。

「一方的」かつ「急速」に進む円安の原因は、日銀の大規模緩和

こうした財務省の神田財務官の発言、エコノミストはどう見ているのだろうか。

ヤフーニュースコメント欄では、時事通信社解説委員の窪園博俊記者が、

「神田財務官が、足元で進む円安について、『(動きが)急速で一方的』と述べました。これは従来よりも円安をけん制するトーンが強まったものだと受け止められます。財務省・金融庁・日銀は先月(5月)末、1ドル=140円台にドル円が乗せた段階で『三者会合』を開催し、円安の動きをけん制しています。
それ以降も円安が進み、さらに足元でやや円安のピッチが速いことから、一段とけん制トーンを強めたとみられます」

と説明。そのうえで円安をストップするためには、

「このまま円安がまさに『一方的』かつ『急速』に進むと、政府・日銀は昨年(2022年)秋と同様にドル売り・円買いの介入を余儀なくされる可能性があるでしょう。ただし、円安を招く要因は、欧米が利上げを進めるのに対し、日銀が大規模緩和を堅持。内外金利差の拡大観測が根強いためです。仮に介入に乗り出しても金利差が開いた状態では介入の有効性は減衰します。日銀の緩和スタンスを修正することが望ましいと言えます」

と、為替介入よりも、日本銀行の政策修正が不可欠だとした。

同欄では、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏も、

「これは日銀が金融緩和を維持することの説明を難しくさせます。実のところ昨年はドルが主要通貨に対して総じて強く、そうした中で円安が進行していました。日銀の金融緩和が円安を促したのは事実ですが、金融引き締めを講じていたユーロやポンドなども通貨安が進行していたため、円安の主因が日銀の金融緩和にあるのかは、何とも言えない状況でした」

と解説。そして、今後については、

「しかしながら、今年はドルが主要通貨に対して『下落(ドル安)』する中、円に対しては上昇(ドル高)となっています。換言すると、円の弱さが際立っているということです。そうなると政府・日銀の議論において『急速で一方的』な円安を止める手段として、日銀の緩和修正が候補にあがるのではないでしょうか」

と、こちらも日本銀行の緩和修正が議論に上がってくるという見方を示した。

日本銀行の政策修正といえば、日本銀行は6月26日、今月15~16日に開いた金融政策決定会合の「主な意見」を公表した。それによると、長期金利と短期金利に操作目標を設ける「イールドカーブ・コントロール」という今の金融政策についてもさまざまな意見が出され、「運用を見直す必要はない」という意見の一方で、「早い段階で見直しを検討すべきだ」とする意見が出たことが明らかになった。

金融緩和の継続が「全員一致」で決められたと発表されたが、「異論」も出されていたわけだ。次回の金融政策決定会合は7月27日~28日に開かれる。どんな論議が行われるか、注目だ。(福田和郎)