責められたことに過剰に反応し、「悪いのは自分ではなく、そちら!」と“倍返し”以上の勢いで反撃を開始……。今、老若男女を問わず増殖を続ける“あの人たち”を生んだ背景、その対処法とはーー。

この夏立て続けに起きた、あおり運転による悲惨な事件。私たちが驚かされたのは、その危険性だけでなく、あおった側の多くが「自分は悪くない、悪いのはあおられる原因をつくった側だ」と主張していたことだった。裁判を有利にするため無理にでも自己の正当性を訴えているのではなく、彼らは本当にそう信じて発信しているのだ。

「実生活においてもこのような人は増えているように感じます。非を認めず責任転嫁に走るため、より大きな、不必要なトラブルに発展するケースも」と、心理カウンセラーの宮本章太郎さんも“私は悪くない症候群”と呼ばれる人たちの急増を危惧している。

「(1)核家族化が進み、叱られた経験が乏しいまま大人になった。

(2)SNS時代の台頭で、自分の価値観だけがすべてになった。(3)ネットやAI化ですぐに答えを得られるぶん、想像力が低下し、周囲の状況や気持ちが思いやれない。これら3つの要素が合わさり、“超個人主義”化が急速に進んだ結果、私たちのコミュニケーション能力は極端に低下しました。コミュニケーション能力が低いと、自分の判断だけが正しいと思いがちになり、考えを否定されたり怒られたりするのは即“攻撃された”とみなし、自分を守るために反撃に出てしまうのです。これが“私は悪くない症候群”を生み育てた背景だと考えています」

誰もがその予備軍でもあるなか、私たちはどう過ごしていくべきなのだろう。「それは結局、コミュニケーション能力を磨くこと」と宮本さん。

「饒舌さは必要ありません。否定は否定を生むだけです。日々、相手を受け入れ、理解するレッスンを積み重ねていけば、自然とトラブルも減っていきますよ」

具体的な行動(やめろ、○○しろ)を求めたり、責め立てたりする言葉は、相手をヒートアップさせてしまうことに。

「売り言葉に買い言葉の事態を避けるためにも、不本意かもしれませんが極力感情を加えず、今起こっていることを淡々と伝えるようにしましょう。相手に“自分は攻撃された”と思わせない言葉選びが大切です」

また、相手の気持ちに寄り添う関係性を築く努力を。

「寄り添うとは具体的に、相手が赤が好きと言ったら、『そうなんだ、あなたは赤が好きなのね』と返してあげること。

ここで『私は赤が嫌い、黒が好き』と否定したり、本心でもないのに『私も赤が好き』と同意する必要はありません。相手も自分も傷つかない、穏やかな空気をつくりましょう」