「私どもは以前から紫外線除去に取り組んでまいりましたが、問い合わせは年間100件程度でした。しかし今年3月以来、半年で2千を超える、国内外の施設や団体、企業から問い合わせをいただいております」
8月26日に開催された記者会見で、そう語ったのは、ウシオ電機の内藤宏治社長。
いま日本の“中堅企業”であるウシオ電機が、世界から注目を集めている。最初のきっかけは、今年4月にコロンビア大学が新型コロナウイルスに対しての紫外線照射実験に関する発表を行ったことだった。
経済ジャーナリストが解説する。
「その実験に使用されていたのが、ウシオ電機が開発した光源だったのです。ウシオ電機は数年前から、紫外線によりウイルスを除去する装置の開発を進めていましたが、今年になって、それが新型コロナウイルスにも有効であることが判明しました」
これまで“紫外線照射によるウイルス除去”でネックとされてきたのは、人体への影響だった。紫外線には殺菌したりウイルスのDNAを破壊したりする力があるが、同時に人間の皮膚や眼球などを傷つけてしまう可能性もあるのだ。
「しかし、ウシオ電機が開発した『Care(ケア)222』は、波長222ナノメートル(ナノは10億分の1)付近の紫外線を使用するため、人体へは悪影響を及ぼさないそうです。同社はさらに、特殊光源と光学フィルターを独自に開発し、安全性を高めたと発表しています」(前出・経済ジャーナリスト)
照明のように天井から照射したとき、50センチの距離では約20秒後にウイルスや細菌の99%が不活化(※病原体を死滅させること)。また2メートル50センチ離れていても、6~7分の照射で、99%を除去できるという。
さらに会見から9日後の9月4日には、広島大学病院の研究グループも、Care222の照射により、新型コロナウイルスの“不活化効果”が確認されたことを発表している。
「現在の生産数は、月に数百台ほどです。9月1日から販売が開始され、価格は1台30万円となっています。
本誌記者もさっそく「Care222」を体験してみた。
箱型で大きさは、縦15×横20×幅5センチほど。いつも愛用しているiPadよりも小さく、自宅に設置してあっても、さほど気にならないだろう。重さは1キロほどなので、片手でも持てる。プラグをコンセントにさせば、すぐに使用できるという。
実は記者は40代になってから、強い日差しにあたると、肌がかゆくなるようになっていた。天井に備え付けてある装置から照射されている光を、おそるおそる浴びてみると……。
意外に思えるほど、何も感じない! 光源からの熱も感じなければ、肌への違和感もまったくない。光源部分は紫色に光っているが、肌に届く光は、特にまぶしくもなく、自宅にある蛍光灯の光とほとんど変わらない印象だ。
ただこうしている間にも、体にまとわりついているウイルスや細菌がどんどん死滅していることを想像すると、不思議な気持ちになる……。
記者会見で、内藤社長は今後の利用法についてはこう語っていた。
「まずは空間インフラに、そして自動車や船舶などの乗り物に、最終的には治療や予防といった医療機器への展開を目指します」
さらに、一定の場所に設置する以外にも、ドローンに搭載しての使用なども検討されているという。
「新型コロナウイルスの感染拡大以降、持病の治療のためでも病院への足が遠のいたという人も多いのですが、病院に設置されれば、安心して通院もできるのではないでしょうか。
会見では、記者から、東京五輪会場で使用される可能性についても質問がありました。担当者は『オリンピックでの使用については、お話ししにくい』と、語っていましたが、ある程度の数を設置すれば、競技会場内の除菌も可能になるようです」(前出・経済ジャーナリスト)
記者会見後、“家庭への普及時期”などについて、経営企画部コーポレートコミュニケーション課の山田宏一氏に聞いた。
――Care222は現在、一般販売されていませんが、今後、一般家庭向けの商品は販売しないのでしょうか?
「いますぐということではないのですが、製造を委託することになった東芝ライテック(東芝グループの照明器具・管球および電気設備資材を製造するメーカー)のようなメーカーさんから、そういった家庭向けの商品が販売される可能性もあると思います」
ウシオ電機はすでにアメリカでは最大手の照明メーカーであるアキュイティ社とも契約しているという。
――製品開発でいちばん苦労した点は?
「特定の光(波長222ナノメートルの紫外線)を照射する技術は、弊社はずっと持っていました。実は問題は技術面ではなく、紫外線に対するマイナスのイメージをどう払拭していくかという点でした。“体に悪くない紫外線もある”ということを、理解していただくのが、いちばん難しかったですね」
日本のメーカーが開発した装置が、世界から新型コロナ感染への恐怖を消し去っていく……、そんな未来が早く訪れることに期待したい。
「女性自身」2020年9月15日号 掲載