「今年に入ってからも医療現場は“薬品不足”に直面することがありました。ケースによって原因は異なるのですが、いまもコロナ禍が薬品の供給に悪影響を及ぼし続けているのです」
そう語るのは東京都内にある大学病院の薬剤部関係者。
本誌は1月5日発売号で、コロナ禍の薬品流通への影響について記事を掲載している。取材の結果、昨年末の時点で一部の月経困難症治療薬、抗生物質製剤、認知症治療薬などが出荷調整をしていたり、販売数量を制限していたりするという事実が判明した。
しかし’21年になってからも、その傾向は続いていたのだ。
「1月下旬、共和薬品工業が医療関係者に『バルサルタン錠』『アムバロ配合錠』の出荷調整を伝えています。いずれも高血圧治療薬として処方されている製品です。新型コロナの流行によるインド国内のロックダウンなどで、原薬の納入が遅延したためと報じられています」(医療ジャーナリスト)
共和薬品工業の広報担当者によれば、
「一時期は、生産国から原薬が全く入手できなかったのですが、現地でも再び生産が開始され、徐々に入ってくるようになりました。まだ入荷が遅れ気味という状態で、(海外からの薬品流通が)100%という状態に回復するためには、まだ時間がかかる、と考えています。いま服用いただいている患者さんの手元に届けられるぐらいの在庫はあります。しかし、たとえばほかの会社さんが出荷調整されたことで、当社に新たにご注文いただいても受けられる状況ではなく、その点を発信しました」
現在も海外からの薬品供給は“微妙な状況”にあるようだ。公益社団法人日本薬剤師会の担当者もこう語る。
「今年に入ってからも、供給の不具合で、納品ができなくなっている薬品があるようです。コロナ禍の影響と考えられますが、たとえば原薬の原産地がインドだとしても、加工のためにほかの国も経由することがあり、どこかの地点で輸送が滞ってしまうこともあるのです」
■想定外の需要の急増で、患者に回らないケースも
新型コロナ変異株も世界中で確認されており、一気に物流が止まってしまう危険性も否定はできない。
「吸入薬のオルベスコ(一般名はシクレソニド吸入剤)のように、“コロナに有効”という情報が流れたことで、一部の医療機関が在庫を保持してしまい、本来使用していた、ぜん息の患者さんのもとに回らなくなってしまったというケースもあります」
この点について、東京都内で薬局を経営する別の薬剤師Aさんにも聞いた。
「昨年にコロナ治療薬候補として話題になったオルベスコは、引き続き品薄で入手できない状況が続いています。同じような理由で疥癬(皮膚病の一種)の薬である『ストロメクトール(一般名・イベルメクチン)』も一時的に品薄になりました。同様に『カモスタットメシル酸塩』も入手困難です」
昨年9月、北里大学病院で軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症を対象に、ストロメクトールの医師主導治験を開始すると発表されたのだ。
需要が高まっているとはいえ製薬会社も苦慮しているようだ。ストロメクトールを扱っているマルホ株式会社の広報担当者は、本誌に対し次のように回答している。
《昨年来より「ストロメクトール錠」の需要が急増したことから、現在、適応を有する「疥癬」や「腸管糞線虫症」の患者さんに、欠品を避け、適切にお届けするために、予防的措置として出荷調整を行っています。
コロナ禍という、特殊な状況下での切実な声に対して、お応えできないことを心苦しく感じていますが、販売会社としましては、すでに適応症を有する皆さん(疥癬、腸管糞線中症)への供給を維持するため、現在は適応外である新型コロナウイルス感染症の使用に関して、出荷調整をせざるを得ない状況になっております》
沢井製薬が出荷調整に踏み切ったカモスタットについて前出の医療ジャーナリストは、 「ジェネリック医薬品で、先発医薬品のフオイパンがコロナ治療薬候補として臨床試験されていることもあり、需要が急増しました。すでに“コロナ予防薬”として服用している医師たちもいると聞いています」
■インフルエンザワクチンが一時的に不足した病院も
カモスタットについては、昨年夏に東京都内の病院がこんな告知をHPに掲載していたこともある。
《新型コロナウイルス感染症に対する予防、初期治療薬として期待が集まり、東京大学などが研究をすすめている「カモスタットメシル」を入荷いたしました。
もとは慢性膵炎や手術後の逆流性食道炎にお悩みの方のお薬なので、保険診療ではなく自費診療での処方となります。
このお薬を本当に必要とされている方々の余剰分がクリニックに入荷してきますので数に限りがあります》
「今後も“コロナに効果がある”と話題になった薬品が、入手しづらくなるという現象が起こる可能性は高いです」(前出・医療ジャーナリスト)
需要と供給の微妙なバランスのうえに成り立っている薬品供給。そのバランスを崩しているのが、“コロナへの不安”なのか。
前出の大学病院薬剤部関係者は言う。
「最近もインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンが一時的に不足したことがありました。抗がん剤治療を受けると、免疫機能が低下することがあります。そこで患者さんには事前に、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種することを推奨しています。
しかし今冬は、コロナとインフルエンザの同時感染を避けるため、また肺炎予防の意識も高まったため、例年より両方のワクチンを接種する方が増えたのです。そのために抗がん剤治療を受ける患者さんの分のワクチンが足りなくなったこともあったのです。
コロナ禍では例年とは異なるニーズも発生し、ワクチンばかりではなく、薬品が不足することもあります。しかし代替薬もありますので慌てないことが大切です」
また前出の公益社団法人日本薬剤師会の担当者も、
「ジェネリックもありますし、現状では、患者さんへ薬は行き届いていると認識しています」
持病薬や常備薬が一時的に消えてしまっても、医師や薬剤師と冷静に相談していくことが必要なのだ。
「女性自身」2021年2月16日号 掲載