6月26日、宇多田ヒカル(38)がインスタライブ中に自身が「ノンバイナリー」であることを公表した。聞き慣れない言葉に、「どういう意味?」と疑問に思った人も多いだろう――。
「性別を男性・女性の二択で分類することを『ジェンダーバイナリー』と言います。『ノンバイナリー』とは、自認する『性』と『表現』に男女の枠組みをあてはめないセクシュアリティのこと。あくまでも性自認(こころの性)や性表現(ふるまう性)を指す言葉であり、性的指向(恋愛対象)とは別の話です」(以下、「」内は全て村上さん)
そう説明するのは、25年間ゲイシーンを牽引してきた雑誌『Badi』の最後の編集長で、現在は『newTOKYO』編集長を務める村上ひろしさん。『newTOKYO』はひとつのジャンルや世界観にとらわれず、気になる最新ニュースやLGBTカルチャーを発信するライフスタイルマガジンだ。
宇多田がカミングアウトしたのは、ちょうどプライド月間(Pride Month)さなかのタイミングだった。プライド月間とは毎年6月の1か月間のことで、LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティ(性的少数者)の権利を求めるイベントが世界各地で行われる。
1969年6月28日、アメリカ・ニューヨークにあるゲイバー「ストーンウォール・イン」で、セクシュアルマイノリティ当事者らが初めて真っ向から警察に立ち向かい、暴動となった事件がプライド月間の発祥だ。プライド月間は1970年代前半以降続いており、伝統のある運動となっている。
宇多田の「ノンバイナリー」公表は性的指向のカミングアウトだと混同されがちだが、「自分は自分であり、男や女などの価値観では生きていないと発言しただけだ」と村上さんは考える。近年だと、小学生のランドセルは「男の子は黒、女の子は赤」という固定概念がなくなり、好きな色を選べるようになった感覚が近いという。
■そもそも、セクシュアリティには4つのタイプが
4つのタイプの組み合わせで、カテゴライズが変わってくるという。
【身体的性】からだの性。
【性自認】こころの性。自分がどのような性を自認しているのか
【性表現】ふるまう性。自分が表現したい性
【性的指向】好きになる性。どのような性に恋愛感情や性的感情を抱くか
上記の組み合わせで、呼び方も変わる。村上さんによると、Facebookアメリカ版の性別欄には58種類の記載があり、タイ版の性別欄には18種類の記載があるそうだ。
■LGBT “QIA+” って?
確かに、この10年ほどでLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)について世間の認知がだいぶ進んだが、加えて、LGBT“QIA+”という呼び方もある。村上さんに“QIA+”について、ひとつずつ意味を教えてもらった。
【 Q(クエスチョニング、クィア)】
自身の性自認(こころの性)や性的指向(好きになる性)が定まっていない/分からない、もしくは意図的に定めていない人のこと。
【 I(インターセックス)】
生まれつき、男性・女性、どちらとも断言できない身体構造を持った人のこと。
【 A(アセクシュアル)】
誰に対しても恋愛感情と性的欲求を抱かない、無性愛の人。(パンセクシュアルの反対)
【 +(プラス)】
ほかにも様々なセクシュアリティがあるという意味。
「最近では、デミセクシュアル、パンセクシュアル、Xジェンダーなどという言葉もよく聞かれるようになりました。
『Xジェンダー』はノンバイナリーとよく似た言葉ですが、こちらに性表現(ふるまう性)の概念は含まれず、性自認(こころの性)が男性にも女性にも当てはまらないこと。『トランスジェンダー』は生まれたときに割り当てられた性別が、自身の性自認(こころの性)または性表現(ふるまう性)とは異なることを指します」(村上さん)
■ジェンダーアイデンティティの可視化
自身のセクシュアリティをオープンにできる人が増えた昨今、今まで「見えなかった」現実が可視化されただけで、決してセクシュアルマイノリティやノンバイナリーが「増えた」わけではないと、村上さんは言う。
「インターネットやSNSのおかげで、自身のアイデンティティがより明確に説明できるようになったのだと思います。そうした背景から、異性愛者、同性愛者関係なく『私はノンバイナリーかもしれない』と気付いた人もいるかもしれません」
SHIBUYA109 lab.はZ世代のジェンダーに対する意識調査を行った。日本におけるZ世代とは1990年代後半から2012年頃に生まれた世代を指し、幼少期からインターネットに触れてきたデジタルネイティブ世代のことだ。意識調査の結果、今後は若い世代を中心に、自分の性が何であってどんな性を愛するのかはひとつの個性でしかなく、『個人』を認め合う社会に向かっていく様子が見えてきたという。
「社会における制度としては、同性婚実現に向けた動きや、ジェンダー平等に向けた動きもより活発になってきています。教育・仕事・結婚・医療・公的サービスや社会保障など様々な分野においても少しずつ改善が行われていくのではないでしょうか?」