デルタ株がいまなお全国的に猛威をふるうなか、次々と検出される新たな変異株。感染力を増したウイルスがはびこる“第6波”の到来に、医師は警鐘を鳴らすーー。

「8月30日、WHOは、今年1月にコロンビアで発見された新型コロナウイルスの変異株『ミュー株』を、VOC(懸念される変異株)の一段階下のVOI(注目すべき変異株)に分類したことを発表しました。ミュー株は日本でも空港ですでに2例確認されていることが厚生労働省から明らかにされており、検疫をすり抜け、国内に入っている可能性は否定できません」

医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんはそう警鐘を鳴らす。

ミュー株にはワクチン耐性があるとみられている。現在日本で猛威をふるっているデルタ株や、人口あたりの死者数が世界最多となった南米・ペルーで流行したラムダ株に続く脅威となるのか、さらなる変異株の出現とともに注視する必要があるという。

また、南アフリカでも新たな変異株が確認されている。この変異株は「デルタ株よりも免疫回避能力が高い(ワクチンが効きにくい)可能性」や「変異の急速さ」がWHOに報告されている。

変異株の検出は海外ばかりではない。日本国内においても、8月30日に東京医科歯科大学が“新たなデルタ株”を初めて確認したと発表した。

「デルタ株には、L452Rという変異があり、ワクチンが効きにくい特性があります。今回、医科歯科大が発見した“新たなデルタ株”には、通常のデルタ株に、アルファ株のN501Yという変異に酷似した、N501Sという変異が加えられていました。ただでさえ強力なデルタ株に、アルファ株の感染力がさらに加わることが懸念されているのです」(上さん)

この“新たなデルタ株”の検出は、世界で8例目、国内ではまだ1例目とのことだが、レアケースと捉えてはならないという。

「この1例が今回の研究で偶然見つかったとは考えにくいです。

変異株はある程度ウイルスの数が増えないと検出されないので、“国内初確認”の背景には、少なくとも数百人以上の感染者がいると考えられます」(上さん)

変異株というと、“海外で検出されたものが日本に入ってくる”というイメージが強いが、医科歯科大の研究チームは「新たなデルタ株は国内由来の可能性が極めて高い」と発表している。

■これまでに確認された主な変異株

【従来株】最初に確認された地域:中国/感染力の目安(従来株比):1
【アルファ株】WHOの区分:VOC/最初に確認された地域:イギリス/感染力の目安(従来株比):1.32
【ベータ株】WHOの区分:VOC/最初に確認された地域:南アフリカ/感染力の目安(従来株比):1.5
【ガンマ株】WHOの区分:VOC/最初に確認された地域:ブラジル/感染力の目安(従来株比):1.4~2.2
【デルタ株】WHOの区分:VOC/最初に確認された地域:インド/感染力の目安(従来株比):2
【ラムダ株】WHOの区分:VOI/最初に確認された地域:ペルー/感染力の目安(従来株比):デルタ株並みか
【新しいデルタ株】最初に確認された地域:日本国内由来か/感染力の目安(従来株比):デルタ株以上か
【ミュー株】WHOの区分:VOI/最初に確認された地域:コロンビア/感染力の目安(従来株比):強力か
【新たな変異株】最初に確認された地域:南アフリカ/感染力の目安(従来株比):強力か

このように変異株の検出が相次いでいるが、そもそも変異株とはどうやってできるものなのだろう。渡航医学が専門の関西福祉大学教授・勝田吉彰さんは、感染症の流行地であれば変異が起きるのは自然の摂理だと話す。

「ウイルスが空気中で勝手に増えたりすることはありません。感染した人間の体内で、コロナウイルスがコピーされるのです。しかし、コロナウイルスは約3万個ものアミノ酸の配列によって構成されていますから、1個、2個のコピーミスは頻繁に起こります。このミスによって遺伝子が変化したものが変異株です。変異株は2週間に1つのペースで出現するといわれています」

それらは本来のウイルスとは異なるネジで作られた、いわば不良品。ほとんどは人に感染することもなく消滅してしまう。

「しかしごくまれに、従来型よりも“高性能”になってしまうことがある。そのうち、感染拡大やワクチン効果減少などの影響に関して警戒・注視が必要とされるものが、WHOでVOCやVOIに分類されるような変異株です」(勝田さん)

複数の変異株に同時に感染してしまうことが原因となって、より強毒化したウイルスが出現することもあると話すのは、東北大学災害科学国際研究所の医師・児玉栄一さんだ。

「たとえばX型とY型のウイルスに同時に感染したとき、XY型という、それぞれの型の特性を引き継いだ、病原性の強い変異株ができあがることがあります。

一定の地域で、複数のウイルス株が一気に感染拡大するようなケースが起きた場合、可能性は低いですが起こりえることです」

前出の上さんは、こうした“ウイルスの進化”によって、ワクチンの効果が弱まったり、複数回にわたって感染してしまうリスクが高まることを懸念する。

「従来型のコロナウイルスにはファイザー製のワクチンによる予防率が95%もあったところ、デルタ株に対しては約40%にとどまると発表している研究もあります。現状では重症化や死に至るケースを抑制するワクチン効果はありますが、新たな変異株や、既存の変異株のさらなる変異によって、その効果が発揮できなくなる可能性もあるのです」

■高度の耐性がある株が国内で広がる可能性も

さらに変異株は、日本でも軽症・中等症の患者を対象に実施が進められている「抗体カクテル療法」の効果にも影を落としかねないという。

「オランダとデンマークで、ミンクからヒトに感染したといわれるY453F変異の特徴は、抗体カクテル療法に高度の耐性があることです。この変異が入った株が、国内で広がる可能性も否定できません」(上さん)

こうした変異株の出現を抑制するには、何より感染者の数を減らすことが大前提だ。

「感染者を増やさないために必要なのは、徹底した検査とワクチンの両輪での対処です。第5波がピークアウトしたという見方もありますが、コロナは季節性で流行するため、日本では11月くらいから感染者が増え始め、第6波が来ると予想されます。秋はいったん小康状態となりそうですが(1)ワクチンの接種率を上げる、(2)学校や企業で徹底したPCR検査を行い、陽性者の早期の隔離をする、(3)仮に緊急事態宣言が解除されたとしても、3密のうちの“1密”も避けるなど感染対策を徹底するーーといったことが求められます。感染が抑制できなければ、さらなる変異株が出現するリスクが高まってしまいます」(上さん)

変異株ラッシュから命を守るには、感染対策を徹底するという、私たち一人ひとりの心がけが欠かせないのだ。

編集部おすすめ