’22年4月に制度の一部が変わる年金。高齢化真っただ中での今回の“年金大改正”は、長生きを前提に、年金をできるだけたくさん増やせるようにするというもの。

「人生100年時代を迎えて、夫の定年退職時が“人生の折返し地点”という人たちが多くなります。長い老後を安心して過ごすためにも、受け取れる年金収入がいくらなのかを、まずは『ねんきん定期便』で確認しましょう。長生きすることを想定して、年金をどれだけ増やすことができるのか。夫の定年前に把握することが大切です」

そうアドバイスするのは、社会保険労務士でファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さん。今回の年金大改正の目玉は、年金を75歳まで繰り下げると84%も増やせる「年金の繰り下げ」。

「外に出ていつまでも健康で過ごすためにも、65歳まで働くのは当たり前、70歳や75歳まで働くことも視野に入ってきます。70歳まで働いて年金を増やしたいという人もいれば、65歳で受け取りたいという人もいますので、職業や資産、健康状態によって、自分に合った受け取り方は異なります。今回の改正では、働き方や年金の受け取り方の選択肢の幅が広がるので、安心できる老後を過ごすための制度設計がしやすくなりました」(井戸さん・以下同)

■60歳からでもiDeCoで“私的年金”を確保しよう

自分で備える「私的年金」として人気の個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)は、これまでは60歳未満の人しか加入できなかったのが、今回の大改正で加入年齢が65歳未満に引き上げられた。

「受取り開始年齢の上限も、70歳から75歳に引き上げられますので、老後資金が少ないという人には年金を増やす絶好のチャンスだといえます。また、50代半ばから始めても運用期間が長く取れるようになるので、『今さら』と思っていた人も、今回の改正を機に検討してみてはいかがでしょう」

たとえば、毎月2万円をメガバンクの定期預金で10年間積み立てた場合と比較してみよう。

10年後、定期預金では240万184円で、利息は146円(税引き後)にしかならないが、iDeCoで運用したケース(想定利回り年3%)では279.5万円にもなる。利益は39.5万円(税引き後)で、その差は歴然!

「長生きリスクに備えるためにも、長く働きながら長期投資でリスクを抑えてお金を増やすチャンスを活用しましょう。

しかも、iDeCoの掛金は全額、所得税の控除の対象になるので、確定申告をすると税金が還付されます」

ちなみに年収300万円、40歳以上の人が、iDeCoに毎月1万円を積み立てていたら、掛金全額が所得控除になるので1年間での税制メリットは1万8,100円。所得税は6,100円、住民税は1万2,000円と、大きな節税効果が期待できる。こうした税制メリットを考えても、iDeCoの加入年齢の引き上げは、老後資金確保のための大きなチャンスだといえるだろう。

それではここで、一度iDeCoの基本についておさらいしておこう。

iDeCoは自分で決めた掛金を毎月積み立てるもので、口座は1人1口座のみ。銀行や証券会社を選ぶ際は、運用商品の種類や手数料を比較検討しよう。

掛金の限度額は、自分の勤務先に企業年金があるかないかなどによって月額1万2,000円~2万3,000円と異なってくる。

「公的年金の被保険者の種別や、企業年金の加入形態によって、積み立てられる掛金の限度額は決まっていて、限度額の範囲内であれば、月5,000円から千円単位で積立額を自由に設定できます。また、積み立てたお金は、自分で選んだ投資信託、保険、定期預金などの金融商品で運用できます」

積立運用した資金は、原則として60歳以降に一括、または分割(年金形式)で受け取ることになる。強制的に資産が形成されるのがiDeCoの強みだが、途中で引き出しができないので、少ない金額からスタートするのがおすすめだという。もちろん掛金や、運用商品の組み合わせは後から変更することもできる。

ただし、そもそも働いていない人や、収入が少なく所得税の額も低い人には節税メリットが少ないので、諸経費としてかかる加入時の手数料2,829円や、毎月数百円の手数料を上回るように「運用」しなければうまみがない。

また、投資はあくまでも余裕のある範囲で行うのが鉄則。預貯金などが月収の6カ月~1年分確保できていない人は、まず資金を蓄えることからスタートしよう。

すでに40年(480月)分の国民年金保険料を納付済みの人は、60歳以降、iDeCoに加入することができない。ただし、年金の未加入期間があり、いわゆる「任意加入」をしている人はiDeCoに加入できるので、早めに自分の納付状況をきちんと確認しておこう。

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