第6波ピークアウト後も、新規感染者数がなかなか減っていかない。ウイルスの弱毒化という私たちの希望に反して、オミクロン株は新たな脅威をもたらそうとしているーー。
「警戒心をもって基本的な感染対策をすべき時期だ」
新型コロナウイルス対策にあたる政府分科会の尾身茂会長は、4月7日に岸田文雄首相に面会した際、こう訴えた。
尾身会長が危惧するのは、従来のオミクロン株「BA.1」から、感染力の強い「BA.2」に急速に置き換わりが進んでいる点だ。
東京都は、BA.2がオミクロン株全体の67.8%を占めていることを4月7日に発表。3月下旬には52.3%の割合だった。つまり、わずか1週間で15.5ポイントも上昇したことになる。
新たなリスクとなるBA.2とはいったいどんなものなのか。ウイルス学が専門の埼玉医科大学前准教授・松井政則氏が解説する。
「BA.2は、オミクロン株から変化した亜種のひとつ。従来のBA.1とは兄弟のような関係です。アルファ株やデルタ株など、変異株はいわば従兄弟関係と考えるとよいでしょう。同じ新型コロナウイルスであっても、兄弟や従兄弟でも性格に違いがあるように、それぞれ特徴があります。BA.2がBA.1と共通している点は、重症化率の低さ。
しかし、やはり気がかりなのが感染力の強さだろう。京都大学の調査によると、感染者1人が何人に感染させるかを示す「実行再生産数」において、BA.2はBA.1を18~26%も上回ることが明らかになっている。
「さらに、感染者がほかの人にうつすまでの日数を示す『世代時間』は従来よりも15%短いといわれています。オミクロン株は、デルタ株と異なり、世代時間が短かったことが第6波の感染拡大に大きく影響しました。このままいくと、5月中には、すべてのオミクロン株がBA.2に置き換わっていることが予想されます。BA.2によって引き起こされる第7波は、第6波以上のスピードで感染が拡大していく恐れがあるのです」(松井氏)
BA.2の感染力の強さについて、現場の声を聞いてみよう。感染症に詳しい、独立行政法人国立病院機構宇都宮病院の院長・杉山公美弥先生が語る。
「BA.2に置き換わりが進むなか、職員の家族や、その家族の職場などで感染が広がっています。感染力は間違いなくBA.1より強いと感じています。患者さんでも、検査をして初めて陽性になっていることがわかるケースが増加。今後は、知らないうちに感染した無症状の人から、高齢者や基礎疾患のある人へうつるリスクが増加していくことでしょう」
■BA.2が感染爆発した場合、どんな状況になる?
BA.2が感染爆発した場合、どんな状況になってしまうのか。
第7波をシミュレーションした、東京大学の仲田泰祐准教授(経済学)は次のように予測する。
「東京都内で、人の移動の季節的な増加があり、歓送迎会などで人と人との接触が増加し、さらに3回目ワクチン接種率が停滞していることなどを考慮すると、4月中に新規感染者は急速に増加していく可能性は排除できません。5月中旬には東京都の1日あたりの新規感染者数が約3万人になる可能性もあります」
BA.2が変異株のなかでは重症化しにくいとはいえ、感染者数が急増すれば第6波を超える死者が出ることは想像に難くない。
じわじわと私たちに忍び寄るBA.2。有効な手立てはあるのだろうか?
「やはり3回目のワクチン接種が急がれます。イギリスの報告では、ワクチンを2回接種して25週以上が経過すると、BA.2の発症予防効果は18%に低下します。ただし、3回目の接種を行うと74%まで上昇。また重症予防効果についても従来のオミクロン株と同様、3回目の接種で90%ほどに上がることがわかっています」(松井氏)
■得てきた教訓をもとに第7波を正しく恐れる
4月8日現在で65歳以上の高齢者の3回目のワクチン接種は84%を超えている。その一方、全人口における3回目接種を終えた人は44.3%と思うように伸びていない。
前出の杉山先生はこう話す。
「副反応を理由に接種しない人がいますが、当院の研究で、発熱や倦怠感などの『全身性副反応』を発症した人の抗体価は、副反応がなかった人より2割程度高くなっており、また副反応を抑える薬を飲んでも高い傾向は変わらないことがわかっています」
その2割上昇した抗体価によって、感染や重症化を紙一重で回避できるかもしれないのだ。
「さらに、やがて訪れる第7波の大きさを少しでも抑えるためにも、3密の回避、すべての人が外出時にはマスクを着用するなど感染対策の基本をいま一度しっかり見直すことが求められています。感染者が自宅で服用できる抗コロナウイルス薬がまだ普及していないなか、遠回りのようでも、それが平穏な日常を取り戻す方法だと思っています」(杉山先生)
コロナ禍で得てきた教訓をもとに、BA.2を正しく恐れる心構えが、私たち一人ひとりに求められているーー。