大雨やゲリラ豪雨が懸念される季節がやってきた。地球温暖化の影響か、豪雨や洪水などの水害が近年相次いでいる。

そんななか、NHKの報道が注目を集めている。『NHKスペシャル』(6月5日放送)と、NHKが運営するNEWS WEB(6月3日公開)で、浸水のリスクが高い地域の人口が急増していることが報じられたのだ。

NHKは明治大学の野澤千絵教授と東洋大学の大澤昭彦准教授と共同で調査を実施。浸水時に深さ3%以上の水に浸かるリスクがある地域で、人口が少なかった場所の1995年と2015年の人口の移り変わりを調べた。ちなみに、水深3mは、一般的な住宅の2階の床下に相当する深さになる。

その結果、“浸水地域”の人口は、埼玉県を筆頭に、全国で急増していることが判明。

背景には「市街化調整区域」で宅地開発が進んだことだとNHKは解説している。

市街化調整区域とは何なのか? 金沢大学名誉教授で、「カワカミ都市計画研究室」を主宰する川上光彦さんはこう解説する。

「高度経済成長期、都市部に人口が集中し、市街地が拡大するスピードが非常に速くなりました。無秩序な開発を抑制しなければ、市街地に必要な道路や公園、上下水道、排水施設などのインフラも整備できなくなる。そこで、市街化を進める市街化区域と、原則開発を抑制する市街化調整区域とに分ける制度が、1968年にできました」

開発が想定されていない市街化調整区域には、農地や緑地などが多く含まれる。基本的に宅地として活用はできないが……。

「農家の次男、三男などが分家し、家を建てることは認められるなど、例外はありました。市街化調整区域でも人口が増加していくケースもあったのです」

■地価も、都市計画税も安いが……

市街化調整区域の開発が一気に加速したのは、2000年ごろからだと語るのは、長岡技術科学大学准教授の松川寿也さんだ。

「1999年の地方分権一括法により、都市計画を含め、まちづくりのルールは、国から地方へ委ねられるようになりました。その一環で、2000年に都市計画法が改正され、自治体の条例で市街化調整区域に新たな宅地を建てることも可能になったのです」

地方の権限を強めることで、地域の実情に即した開発ができるようになったが、負の作用もあった。

「少子高齢化が進むような地方都市の中には、人口流出で税収に苦しむケースも少なくありません。人口流入を促せば、税収も確保できる。

そこで注目されたのが、市街化調整区域の宅地開発です」

住む側にはこんなメリットがあるという。

「市街化地域に比べ、土地も広く活用でき、地価が安い。自治体によって都市計画税の算出方法は違いますが、市街化調整区域は安価で、地域によってはゼロというケースもあります」

不動産業者も新たなビジネスチャンスとして捉え、市街化調整区域の宅地を専門とした業者も存在するという。一見、自治体にも住民にもいい傾向に思えるが、水害に対して脆弱な地域が宅地化されてしまうこともあるという。

「市街化調整区域だからといって、必ずしも浸水リスクが高いというわけではありません。ただ、水田や農地がある市街化調整区域は低い場所のため、水害のリスクは高い傾向にあるのです」

NHKの調査によると、この20年間で増えた“浸水地域”の人口のうち、埼玉県は約83%にあたる190,611人が、茨城県は約69%にあたる14,709人が市街化調整区域に住む人だという。

2000年以降に宅地開発された新興住宅地などに住む人は、今一度、災害リスクなどを調べてみる必要がありそうだ。