’20年夏に認知症を公表するも“最後の絵画展”を開催するために一念発起!? 今回は、絵画展のための作品を描きながら、脳も活性化できる一石二鳥の“脳活アート”に挑戦した蛭子能収さん(75)。はたして作品は完成するのだろうか……。

■蛭子さんになんとか絵を描かせたい!

認知症になった蛭子さんの展覧会をやりたい──。そんな『女性自身』の編集デスク・吉田のムチャぶりを受け、私、「蛭子能収の人生相談」の担当記者・山内は悩んでいた。

認知症を公表して2年。最近の蛭子さんのやる気は低下の一途。「絵を描いてください」と頼んでも「いや~、面倒くさいですね」と頭をかきながら笑ってごまかす。画材を用意しても、ペンを持って10分ほどで「大丈夫? 次の仕事があるから」と、マネージャーを見ながらペンを置いてしまう。仕事などないのに……。

認知症という病気は、サブカル界のカリスマ“芸術家・蛭子能収”の才能と集中力を奪い去ったのか。悩める私にある日、ひとつのアイデアが浮かんだ。

それが「臨床美術」だ。彫刻家の故・金子健二さんが、医療や福祉の専門家とともに開発した日本初のアートプログラムメソッド。認知症の予防や改善だけでなく、子どもの感性教育、社会人のメンタルヘルスケアなどにも取り入れられている。

「認知症の予防や症状改善を目的とした臨床美術には、誰もが楽しみながら作品をつくれるように考えられたプログラムがあり、創作活動を通して脳が活性化します」

そう語るのは「芸術造形研究所」の臨床美術士・大倉葉子さん。これまでも認知症患者の意欲と潜在能力を引き出してきたベテラン臨床美術士である。

彼女の手にかかれば、「面倒くさい」とペンを投げ出す蛭子さんのやる気も、引き出してくれるかもしれない──。

■会話で蛭子さんの心を解きほぐす!

いよいよ蛭子さんに臨床美術にチャレンジしてもらう日が来た。

「今日は絵を教えていただこうと思ってやってきました」

臨床美術士の大倉葉子さんは、蛭子さんにこう語りかけた。

初対面の人の前ではいつも表情が硬くなる蛭子さんの目元が少しゆるんだ。

「蛭子さんの本を3冊読ませてもらいました。好きなものも知っています。カレーライスにラーメンですね」と語る大倉さんに、蛭子さんは「そうですね」と笑顔を見せる。

「私は蛭子さんの描く人の顔が好きなんですよ。見る人によって悲しそうにも、うれしそうにも見えますよね。どうやって描くんですか?」と、大倉さんは紙とペンを取り出した。

脳を活性化させる「臨床美術」だが、まずは蛭子さんの心を開いていくコミュニケーションが重要のようだ。

「どうやったかな……」と、頭をかきながら蛭子さんが自らペンを手にした! 知らない人の前だとモジモジして何事も出だしが遅くなる蛭子さんだが大倉さんとの自然な会話で心がほぐれたのか、スムーズにペンを動かした。

■ネガティブ思考でペンの動きが止まる

その次に、蛭子さんの目の前に、展覧会用のイラストボードが用意された。

ただならぬ雰囲気に蛭子さんの表情が固まった。

すかさず大倉さんは、バッグから競艇専門誌『ボートボーイ』を取り出し「今日は大好きなものを描きましょう」と話しかけた。たちまち目を細めてページをめくり始める蛭子さん。

「オレは、ボート走って行くときに、波があがるところが好きなんだよね」と、イラストボードの中央に競艇のボートを描き始めた。

認知症になってから蛭子さんの絵は、紙の隅に小さく描かれるのが特徴だった。大胆な構図が魅力の蛭子さんが戻ってきた? そんな矢先、「実は、オレは競艇でずいぶん負けました。家族にも怒られたんですよね」とぽつり。

蛭子さんの手が止まった。絵を描いていくうちに競艇に対するネガティブ思考が充満してきたようだ。

表情も硬くなる。こうなると絵は進まない。さあ、どうなるか?

【後編】“最後の絵画展”蛭子さんの今が描かれた作品が完成!へ続く

※今回、蛭子さんが体験したのは臨床美術の手法によるコミュニケーションを通した絵画制作であり、実際の臨床美術のプログラムとは異なります。

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