「浩太は日々の生活を大切にしている、情に厚い“普通の人”。ネジって小さいけれど、モノとモノをつなげる大事なもの。
そう語るのは、連続テレビ小説『舞いあがれ!』で空への夢に向かっていくヒロイン・岩倉舞(福原遥)の父親・浩太役を演じる高橋克典(57)だ。浩太は東大阪の町工場を経営する二代目社長。かつては重工メーカーに勤めて飛行機を製作する夢を抱くも、父の死で退職し、ネジを作る工場を継ぐ。扮する高橋は意外にも朝ドラ初出演だ。
「朝ドラヒロインの父親役を演じることが決まったときはとてもうれしい半面、恥ずかしい気持ちもありました。僕は、ずっと陰や癖がある感じの役が多かったので、朝の番組に出ていいんだろうか、という戸惑いがありました。
でも僕も家庭を持ち、考え方の幅も広がって、ようやく家庭を持つ皆さんがふだん生きている気持ちを自分でもシェアできるようになりました。“普通の人”のいい芝居ができればいいなとーー。
僕の子供のころの夢もパイロットになることでした。よく覚えているのは幼稚園のとき。新興住宅地にあった日吉の家が坂の中腹にあって、近所の子たちと待ち合わせしている時間に、ゴォ~と音を立てながら家と家の間を飛んでいく飛行機を見上げるのが日常だったんです。
それから小学生のときに家族で見た朝ドラが『雲のじゅうたん』。浅茅陽子さんがヒロインで、日本初の女性飛行士の物語でした。僕の初の朝ドラも女性飛行士がヒロインなので縁を感じます」
東大阪が舞台なだけに、登場人物は大阪弁だ。
「大阪弁は難しいですよね。言葉に感情や人間性がのっかっているので、それを理解しないと、言葉と自分の感覚がずれるんです。クランクインのときに驚いたのはリハーサルがないこと。現場に行って初日から本番。やりながら決めていくという、これは僕にとってはハプニングでした(笑)。
大阪弁のパターンをいくつか用意して浩太役に挑んだんです。最初、いかにも“大阪のオジサン”でやってみたら、“そうじゃない”と言われて(笑)。スタッフさんから“大学を出てるインテリだからソフトな感じでやってほしい”と言われて、線が細い、精神的にも柔らかい感じの、あの浩太になりました」
■現場で毎朝、永作、福原と3人で「おはようのハグ」を
“娘”福原とは今年4月に放送された『正直不動産』(NHK)に続き2度目の共演となる。
「実は僕自身が子育てしているときに『お母さんといっしょ』を毎日子供と見ていたので、遥ちゃんの第一印象は『まいんちゃん』。芝居ができて、段取りもしっかりしていてすごいな~と。『正直不動産』で初対面のときに彼女には『まいんちゃんだね、見てたよ~って』と伝えました。敵役だったので、そのときは距離を保つようにしていましたが、その直後に朝ドラも決まったんです」
今作では、福原とはすぐに“父娘”関係が築けたという。
「遥ちゃんとは自然に仲よくなっていく感じ。つっこまれたりもするし、人懐っこくしゃべってくれるし、親戚の子と話す感じです。芝居も心でやる方なので、家族として深いところで打ち解けあうのが早かったですね。
舞の小学生時代は最初、子役の浅田芭路ちゃんが演じて、途中から遥ちゃんに代わりました。はじめは遥ちゃんも緊張していたようですけど、子育てと同じで、家族は時間の積み重ね。それで最初のうちしばらくは、現場で会うと永作さんと3人で『おはよう~』って毎朝ハグしてました。そうすると感覚的に違いますね。背中に触れると家族の絆が感じられるから3人で『いいよね』って」
浩太の妻役を演じる永作博美(52)、息子役の横山裕(41)とも何度か共演経験がある。
「永作さんとは若いときに何本か一緒にやらせていただいていて。それからお互いに子供が生まれて、家庭を持って、そうした苦労をシェアできるものがあるから、すぐ家族として打ち解けました。
横山くんとは何回も会っていますが、すごく人懐っこいし、『大阪でみんなそろったら一緒にご飯食べに行こうね』って言ってくれてます。人とコミュニケーションをとるのが上手。遠くで見かけても手を振ってくれるし。
みんなで『岩倉家』というLINEグループを作ってやりとりしているんです。お兄ちゃんはあんまり家族一緒の撮影はないから、大阪で3人集まったときには『今度はお兄ちゃんも一緒にね!』とメッセージを送っています」
■「こういう時代、あったかい気持ちになることは幸せなこと」
コロナ禍のため、岩倉家の食事会は開催できていないという。
「でも、岩倉家はすっかりなじんでいますよ。2人(永作と福原)は僕には白くて丸いイメージがあるんですけど、僕の奥さんと子供も白くて丸いので、どこかなじみがあるんです。白玉だんごみたいでね(笑)。僕はみたらしだんごって言われてます(笑)」
すでに撮影は半年が過ぎたそう。
「東京と大阪を往復する日々ですが、なかなか出かける時間がなくて。
高橋は今作に一貫している“苦境を明るく乗り越える”姿勢に共感できると力説する。
「毎日楽しみにしてくれて、あったかい気持ちになってくれたらいいなと思っています。
脚本を書いている桑原亮子さんは聴覚障害があることを公表されていらっしゃっていて、だからこそ、いろんな逆風の中でも心を明るく持っていくすべをご存じなんじゃないかなと思います。脚本を読んでいると、随所に感じるんです。こういう大変な時代では、あったかい気持ちになることは幸せなことなんじゃないかと。 しかも遥ちゃんが国民の娘みたいな感じなので、皆さんと一体感を持てるドラマになればいいなと思います。僕が、その足を引っ張らなければいいなと(笑)」
岩倉家のあったかさが、私たちの心に染み入る秋となりそうだ。
連続テレビ小説『舞いあがれ!』はNHKで月~土曜放送中(午前8:00~総合/午前7:30~BS4K・BSプレミアム※土曜日は1週間の振り返り)