住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、夢中になったドラマの話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

「小学生のころからテレビっ子。“テレビに出たい”という夢も抱いていました。なかでも影響を受けたのが、野島伸司さんが脚本を手がけたドラマ。ほぼすべての作品をリアルタイムで見てきました。主役ばかりでなく、脇を固めるキャラクターも含めて、いまだに心に残っているのは、やっぱり脚本に力があったからだと思います」

こう語るのは、女優の笛木優子さん(43)。幼いころは一人で留守番することが多く、下校すると、まずテレビのスイッチを押した。

「夕方から寝るまで、ずっとテレビを見ていました。アニメ『ちびまる子ちゃん』(’90年~・フジテレビ系)はすごくブームで、私も2人姉妹なので共感できました。歌番組は『ミュージックステーション』(’86年~・テレビ朝日系)や『THE夜もヒッパレ』(’95~’02年・日本テレビ系)を欠かさず。アニメ『スラムダンク』(’93~’96年・テレビ朝日系)に影響されて、中・高校生のときはバスケ部に所属していました。根が単純なんです」

テレビ番組の中で、もっとも夢中になったのがドラマだ。

「『すてきな片想い』(’90年・フジテレビ系)は、野島さんが手がけた作品だとは知らずに見ていました。

まだ小学生で、大人の恋愛など理解できない部分もありましたが、ギバちゃん(柳葉敏郎)はかっこいいし、ミポリンもかわいい。このドラマをきっかけに中山美穂さんのファンに。ドラマだけじゃなく、歌やCMでも活躍する姿にあこがれました」

ドラマを見ていると、時間を忘れるほど夢中になれた。トレンディドラマ全盛時代の『101回目のプロポーズ』(’91年・フジテレビ系)も忘れられない作品。

「当然のことながら『ボクは死にましぇ~ん』の名ゼリフも、よくマネしていました。月9のドラマといえば、都会的でおしゃれな男女の恋愛が定番ですが、さえない男性を演じた武田(鉄矢)さんの姿を見て“こういうパターンのドラマもあるのか”と感心。

なにより浅野温子さんがすごくきれいで、よく泣くシーンがあるんですが、そのたびに私も感情移入してしまう。女優さんの演技ってすごいなと思うように。とにかくすごくエネルギーのある作品でした」

■刺激的な内容で話題となった野島作品

笛木さんが、野島伸司という名前を意識して見始めたのは『高校教師』(’93年・TBS系)から。

「学校の先生と女子生徒の恋愛や、自殺などを扱っていて、過激すぎる内容。目を背けたくなるような描写もあって、子どもながらに“見ちゃいけない”と思いつつ、それでも先が気になる。背徳感を抱きながら、つい見てしまうんです」

家族の絆を感じたのは『ひとつ屋根の下』(’93年・フジテレビ系)だった。

「パート1も2も、全話見ています。忘れられないシーンはたくさんありますが、なかでも思い出深いのは、足の故障で選手生命を断たれたあんちゃん(江口洋介)が、それぞれトラブルや問題をかかえたきょうだいを一つにするためにマラソン大会に出場したシーン。ラストで、片足を引きずりながらゴールへと走るあんちゃんのもとに、きょうだいがみんな集まって応援する。ゴールのシーンはスローモーションになって、チューリップの『青春の影』が流れるのですが、思い出すだけで大号泣。野島さんの作品は、内容ばかりでなく、音楽もすごくいいんです」

『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(’94年)、『未成年』(’95年・ともにTBS系)なども刺激的な内容で話題となった。

「『人間・失格』で、KinKi Kidsの2人が演じたプールのシーンでは同性愛が描かれていてドキドキ。

いじめや体罰など、とにかく情報量が多くて、感情面がパンク寸前になりながら、次回が気になってしょうがない。野島作品を見ると心がえぐられるのですが、そのたびにドラマを通して人生経験を積んだような感覚になっていました」

こうしたドラマの影響により、芸能界へのあこがれはさらに強くなった。

「オーディション番組の『ASAYAN』(’95~’02年、テレビ東京系)に応募したいなと思っていたのですが、通っていた高校は芸能活動が禁止。学校をやめるほどの勇気はなくて……」

ところが’98年、高校の卒業を控え、短大への進学が決まったころに、原宿のラフォーレ前でスカウトされた。

「実際に演技をすることになると、相手の目を見てセリフを言うだけで、恥ずかしくて顔が赤くなるんです。もう、無力感ばかり。

ドラマは好きでしたが、単なるファンとして見ていただけ。野島作品に出てくるような、感情を揺さぶる演技をつぶさに研究していれば、もっと厚みのある演技ができたのにって、後悔していました(笑)」

毎日のようにオーディションに挑戦し、ことごとく落ちた。

「でも、もう諦めようかなと思うころに限って、たまに合格したりするんです」

そんな状況を繰り返すうちに、ドラマの仕事が徐々に増えていき、女優として成長していった。そして’17年には『雨が降ると君は優しい』(Hulu)で、野島作品への出演を果たした。

「野島さんの台本を手にしたときは感慨深かったです。最初は怖い人というイメージだったのですが、実際にお会いすると、すごく気さくで面白い人。でも、ご本人には『ファンです』とはなかなか言い出せず、ドラマの打ち上げが終わって帰るとき“一生、会えないかもしれないから言っておきたい”と思って、ようやく伝えることができました。すごく喜んでくださったのですが、あまりに唐突だったから“ヘンな人”って思われたかもしれないですね(笑)」

思春期に衝撃を受けた野島作品があったからこそ、今の女優の仕事へとつながっていったのだ。

【PROFILE】

笛木優子

’79年、東京都生まれ。日本でのデビュー後、’01年韓国ドラマ『わが家』にユミンの名前で出演し人気を博す。韓国大作ドラマ『IRIS』(’09年)、『美しき人生』(’10年)にも出演するなど、日韓のドラマで活躍する。’18年に結婚、’20年に男児を出産し1児のママとなった