「けたたましい警告音が鳴って、何が起きたのかと混乱して、すごく怖かったです。直後には幼稚園から、子供の送迎バスを停車させたという連絡が来ました」(函館市在住の主婦)
4月13日の午前7時26分、防衛省は北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射されたと発表。
約30分後、政府はJアラート(全国瞬時警報システム)で「直ちに建物の中、又は地下へ避難して下さい。ミサイルが、08時00分頃、北海道周辺に落下するものとみられます」と警戒を呼び掛けた。
その後、「北海道及びその周辺への落下の可能性がなくなった」としてJアラートは訂正されたが、道内を走るすべての在来線の運行が一時見合わせられるなど、朝の通勤時間帯に大きな混乱を招いた。
「NHKや民放各局は通常の放送を中断してJアラートの画面に切り替えました。なかには『北海道に落下したということです』という誤った情報を流し、すぐに訂正した局もあるなど、一時はメディアも混乱状態になっていました。
北海道では、電車だけでなく新千歳空港も滑走路の運用が一時停止されたり、公立小中高校など100校以上が始業時間を繰り下げに。多くの道民が戸惑う事態になりました」(全国紙記者)
日本の領域内への北朝鮮のミサイルの落下が予測されたのは今回が初めてだという。翌14日、北朝鮮の朝鮮中央テレビは、13日に発射したミサイルの映像を公開している。
「発射を現地で指導する金正恩総書記の姿もあり、かたわらには娘や、妹の与正氏らもいました。固体燃料を使った新型大陸間弾道ミサイルの試験発射だとされています。北朝鮮は昨年、過去最多の37回のミサイルを発射。今年に入ってからも高頻度で発射を繰り返しています」(前出・全国紙記者)
■前例のない場所を通過する可能性も
北朝鮮のミサイル発射の意図について、北朝鮮情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授が解説する。
「北朝鮮は、武力で韓国を占領したいという野心を捨ててはいません。しかし、韓国と戦おうとしても、米国が韓国を助けるから手が出せない。そこで“私たち(北朝鮮)と韓国が争ったときに手を出したら、私たちはあなたがた米国の領土を核兵器で攻撃するぞ”という脅しの意味で、米国に届くミサイルを開発しているのです。
ただあくまで脅しであって、北朝鮮は米国と戦いたくはありませんから、現在のところは、米国を刺激しつつも、米国が決定的には怒らないような配慮をした場所を狙ってミサイルを飛ばしています」
米国を怒らせない範囲で挑発しているようだが、とはいえ一歩間違えば大変な事態にーー。
「コリア・レポート」の辺真一編集長は、こんなケースを指摘。
「北朝鮮の弾道ミサイルは、グアム、ハワイなどを射程に収めており、日本列島の上空を飛び越えていきます。ただ、『周辺諸国の安全を考慮してミサイルを発射している』といつも言っており、実際にミサイルや部品が落下したことによる被害を出したことは一度もないんです。
しかし絶対にトラブルを起こすことがないとはいえません。万が一、日本の飛行機や漁船に命中した、あるいは領土に着弾したとなると、これはただごとではありません」
北朝鮮のミサイルは過去7回も日本の上空を通過している。今回は北海道周辺だったが、今後、心配な地域はあるのだろうか。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに聞いた。
「今は本番ではなく、発射実験をやっているわけですが、北朝鮮としてはなるべく国際社会の反発が少ないところを選んで撃ちたい。
また過去に、“人工衛星だ”という口実で飛ばしたときには、2つの方面に撃っています。まず、南のフィリピンの方面で、沖縄地方の上空を通過しました。もうひとつは東の方面。最初のころのテポドンがそれで、秋田と岩手の上空を通過しています」
万が一、実験ではなく“本番”で米国方面に飛ばそうとしたら、危険な地域はさらに広がってしまうそうだ。
「もしハワイに飛ばすとなると、東北地方北部の上空を通過しますし、いっぽうグアムに飛ばすとなると、中国・四国地方の上空を飛ばすことになります。過去に一度、北朝鮮はグアム周辺に発射する計画を発表したことがあり、そのときは中国・四国地方の上空を通るので、現地に自衛隊がスタンバイしていたこともあります」
さらに黒井さんは「今後、どんな状況の変化があるかはわからない」とも言う。
「日本列島の前例のない場所を通過することも可能性としてはあります。今回、Jアラートの正確性も取り沙汰されていますが、警告が出たら1秒でも早く建物内に避難することが重要でしょう」
心配しすぎてパニックになってもいけないが、情報を得たら素早く対処できる準備はしておきたい。