「夜中にトイレで1~2回起きるのは、年なんだから仕方ない」
そう思ってはいないだろうか。
「就寝後にトイレで2回以上起きる高齢者は、1回以下の高齢者より、死亡率が1.98倍上昇するといわれます。
そう警鐘を鳴らすのはマイシティクリニック院長で『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』の著者、平澤精一先生だ。
夜間頻尿とは、就寝後1回以上トイレに起きなければならない症状で、そのために日常生活に支障をきたしている状態を指す。
夜間頻尿に悩む人は60代の39.7%、70代の62%、80代の83.9%と、高齢になるほど増える傾向がある(02年・日本排尿機能学会)。予備群を含めた患者数は実に、40歳以上で約4,500万人に及ぶそうだ。
夜間頻尿で、どうして死亡率が高くなるのだろう。
「原因はいくつかありますが、まず、いきなり冷たい便座に座ることで血圧が大きく変動し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞を起こす人が多いです」(平澤先生、以下同)
■一晩3回以上トイレに起きる人は転倒のリスクが1.28倍
なかには、排尿後に意識を失う「排尿失神」を起こす人も。
「排尿失神は、排尿で血圧が下がり、心臓から脳へ送られる血液が急に減るため、脳が酸素不足になって起きる意識障害です。
排尿失神自体は後遺症などの心配も少なく回復しますが、問題は転倒です。廊下や階段で倒れて、打ちどころが悪いと危険です」
失神しなくても、夜中は暗くて周りが見えづらい、寝ぼけて足元がおぼつかないなど、転倒のリスクは高そうだ。
「一晩に3回以上トイレに起きる人は、トイレに行く際に転倒するリスクが1.28倍になるというアメリカの研究報告もあります。
転倒での骨折が原因で寝たきりになる人もいますし、そもそも睡眠不足では日中のパフォーマンスが下がります。意欲や集中力が低下し、居眠り運転などの危険性も無視できません」
睡眠不足からホルモンバランスが崩れると、うつなどメンタル面に不調が現れる人もいるそう。
そもそも、夜間頻尿はなぜ起きるのだろう。
「原因はおもに『膀胱畜尿障害』と『夜間多尿』『睡眠障害』の3つです」
順に解説してもらおう。
「膀胱畜尿障害は、女性では多くは『過活動膀胱』によって起きます。
加齢とともに、血管が老化して血流が悪化。膀胱のしなやかさや弾力性が失われ、排尿筋が過活動状態になります。その結果、膀胱に十分に尿をためられなくなり、少ない尿でも『尿意切迫感』といってトイレに行きたくなる。夜中に何度も起きてしまう原因です」
夜間多尿は、文字どおり夜に作られる尿が多い状態だ。本来、夜は抗利尿ホルモンなどの働きであまり尿が作られず「夜中はトイレに行きたくならない」のが正常だそう。加齢とともにこうしたホルモンが減少していく。
「筋力や血管の収縮力の低下も、夜間多尿の原因です。血行が悪く下半身に水分がたまった状態で横になると、その水分が上半身に移動し腎臓に届いて、夜間に尿を作ってしまうのです。
いっぽう、糖尿病によって夜間多尿が起こる場合もあります。
睡眠障害は……?
「高齢になると日中の活動量が低下し、睡眠が浅くなりがちです。リウマチなどの痛みで深く眠れない人もいるでしょう。夜中、目が覚めたときに軽い尿意を感じてトイレに行く。これが習慣化してしまうことがあるのです。
逆に、尿意があるから就寝後に目が覚め、睡眠が浅くなることもあります。どちらが根本の原因かは難しいところですが、悪循環が起きるケースが多く見られます」
■利尿作用がある夜のカフェイン摂取にも気をつけて
夜間の排尿回数が多く、症状がひどい場合は、原因を特定して治療することが必要だ。服薬などで症状を軽減できるので、泌尿器科の専門医に相談しよう。
だが、夜中のトイレが1回程度など症状の軽い人や予防目的なら、運動と食事での対策があるそう。
「運動面では、骨盤底筋体操が有効です」
骨盤底筋体操は、あおむけに寝てひざを曲げ、体の力を抜いて膣と肛門をキュッと締める、緩めるを繰り返すもの。慣れると、立っていても座ったままでもできる。また、散歩やスクワットなどで下半身を鍛えることも有効だという。
「食事面では、朝、トリプトファンやビタミンB⁶を取ると、夜に睡眠ホルモンのメラトニンが作られ、深い睡眠が得やすくなります」
トリプトファンは大豆や乳製品、肉、バナナ、ピーナツに、ビタミンB⁶は鶏肉や魚などに多い。
「最近は熱中症対策として水分をたくさん取るため、カフェインの多い緑茶などを飲む人もいるようですが、カフェインには利尿作用があります。夜はノンカフェインの麦茶などを飲んでください」
健康で長生きするために、夜間頻尿を侮ってはいけない。若いうちから夜中のトイレ対策に励もう。