「親の加入している生命保険を子どもが知らないまま親が亡くなり、保険金を受け取れなかった人がいます」

そう話すのはファイナンシャルプランナーの高山一恵さん。

「生命保険に入ってるなんて親から聞いたことがない」と言うAさん。

親の死から数年後に実家を片づけていたら、保険証券が出てきた。保険金は500万円。あわてて保険会社に連絡したが、時効だと言われ、保険金は受け取れなかった。

「生命保険の死亡保険金は、被保険者の死亡から原則3年、かんぽ生命は5年で請求権が失効します」(高山さん、以下同)

親が加入中の保険をきちんと把握している人は案外少ないのでは。「お金の話はしづらい」などと躊躇していると、Aさんのように親の保険をムダにすることにも……。

「多いのは『保険には入っている』と聞いていても、保険証券が見つからないケースです」

親が亡くなったり認知症になった後では、保険証券の保管場所を聞き出せない。思いつく限りを捜しても見つからないときは、どうすればいいのだろう。

「まずは郵便物などをチェックしましょう。保険会社からのお知らせなどがありませんか」

勧誘や案内なども住所を知らないと送れない。郵便物があるなら、何らかの契約があるかもしれない。

「次は、通帳などで保険会社関連の履歴がないか、調べましょう」

保険料の引き落としや保険金の入金などがあれば、保険会社が見つかるだろう。

「それでもわからないときは、生命保険協会の『生命保険契約照会制度』を利用しましょう」

生命保険協会とは、申請書や戸籍等の必要書類を添えてネットか郵送で申し込むと、生命保険協会の会員約40社に契約の有無を調べてくれる、いわば“保険探偵”だ。

利用料は3千円。約2週間で生命保険会社名がずらりと並び、契約があれば〇、なければ×がついた書類が届く。その後、〇のついた保険会社に自分で連絡するとよい。

「照会制度を利用する人は増加傾向です。困っている人が多いことの表れでしょう」

ただし、共済や少額短期保険などは生命保険協会の会員ではなく、照会制度の対象外だ。すべての保険会社を調べられるわけではない。

「親が元気なうちに、加入中の保険会社名や、保険証券のありかなどを聞いておくことが大切です」

だが「加入中の保険がある」という情報だけでは不十分なことも。

Bさんは母から「生命保険の受取人はBさんにしている」と聞かされていた。母の死後に保険証券を見たら、Bさんの名前が旧姓で表記。早くから加入していた母の愛を感じたが、保険金の受け取りには戸籍関係の書類などが必要で手間も時間もかかったという。

ほかにも、父の死後に保険証券を見たら、受取人は父より先に亡くなった母だったという人も。

「保険証券の保管場所を聞いたら、一度、証券を確認してみましょう」

保険証券には保険を契約して保険料を払う契約者、保険の対象となる被保険者、保険金の受取人が明記されている。

正しく記載されているかチェックしよう。

親の死後、預金は凍結される可能性があるが、子どもが受取人の保険は比較的早く保険金を受け取れる。「葬儀費用で面倒をかけたくない」親の気遣いだろうが……。

「きょうだいがいる場合、受取人が誰かでもめることがあります。親ときょうだいがそろった場で、話し合っておくといいでしょう」

また、生命保険には(500万円×法定相続人の数)という相続税の非課税枠がある。

「相続に活用したいなら、契約者と被保険者は同一人物で、受取人を子どもにする必要があります。

たとえば契約者が父で被保険者が母、受取人が子どもなど、それぞれ異なる場合は、受取人に贈与税がかかります。また、受取人が孫など法定相続人以外の場合も、相続税の非課税枠は使えません」

■親が高齢になったら家族(情報)登録制度を利用

「せっかく加入していたのに使えなかった」という残念な保険も。

Cさんの親は常々「医療保険に入っているから入院しても安心」と話していた。だが加入していたのは、入院5日目以降しか給付金が出ない古いタイプの医療保険。Cさんの親も3日間の入院で「使い物にならなかった」と憤る。

「がん保険に入っている」と言うDさんの父も、10年以上前のがん保険のままだった。

幸い早期発見で「上皮内新生物」が見つかったが、古いがん保険では保険金支払いの対象外。せっかく10年以上保険料を納めていたのに、保険金は1円も出なかったという。

「保障が本当に必要か、今の時代に合っているかなども確認して」

使えない保険に保険料を払うのはもったいない。解約して保険料分を貯金したほうがよい場合もあるだろう。

「親が高齢になったら、保険会社に家族の連絡先を登録しておく『家族(情報)登録制度』の利用がおすすめです」

登録された人は、保険会社に保険の契約内容などを照会できたり、契約者の代わりに保険の請求書類などを取り寄せることも可能だ。

「急な入院などのとき、親に代わって連絡できるのは安心です。ただし、登録者が保険金を請求できるわけではありません」

親が病気で保険金を請求できない場合はどうすればいいのだろう。

「『指定代理請求制度』を利用しましょう。あらかじめ契約者が指定した代理人は、保険金を請求することができます。代理人は、契約中の保険にも指定できますよ」

子どもを思って保険に加入する親の好意を無にしないためにも、親の保険は定期的に見直そう。

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