今年、芸能生活40周年を迎えた中山秀征さん(57)。中山さんといえば、過去には『DAISUKI!』(日本テレビ系)、『THE夜もヒッパレ』(日本テレビ系)、『ウチくる!?』(フジテレビ系)、現在は『シューイチ』(日本テレビ系)など、数々の人気番組のMCを務めてこられました。

長きにわたり芸能界の第一線で活躍できた要因は「人間関係を大切にしてきたからだ」と中山さんは言います。現在発売中の『気くばりのススメ 人間関係の達人たちから学んだ小さな習慣』(すばる舎)の著者でもある中山さんに、「芸能界の達人」についてインタビューマン山下がお話をお聞きしました。

――著書に、人間関係は距離感が大事だと書かれていました。

会話していて、距離感が近すぎると「おまえ近いよ」っていう人がいるじゃないですか。だけど「おまえ遠いよ」というのもある。ほど良い距離感というのは手の長さぐらいで、ひじがぶつからない程度だと僕は思っています。

■“いちばん面白い”を常に選ぶ松本明子さん

――中山さん、松本明子さん、飯島直子さんでやっていたロケ番組『DAISUKI!』で中山さんは出会った一般の方たちと、いい距離感でうまくコミュニケーションを取っているように見えました。

あの番組で街の人たちと突然しゃべれたのは、距離感の保ち方がテレビの中で話すときにも合っていたからかなと。ただ松本さんは距離感を無視するタイプなんです(笑)。距離感どころか中に入ってきますからね。

――松本さんは確かにロケ中に、中山さんと腕を組んでピタッと引っついて距離が近いイメージがありますね。

あれはなんで腕を組んだかというと、松本さんの視力が悪いから。

視力が悪いのにメガネもコンタクトもしてないから怖くてすぐにつかまるんです。だからテレビを見ている人は「松本さんだけ腕組んでる」って思うから「直ちゃんも」ってなって。そこから『DAISUKI!』といえばスリーショットで腕を組んでるというイメージができたんです。

――同番組は9年も続く大人気番組になりました。

それは松本明子がいたからこそ番組を長くできたんです。『DAISUKI!』みたいな男1人、女2人の番組の場合は「当たらない」って言われたんで。過去にその構図でまず当たったことがないんです。女1人、男2人はいいんですよ。姫は1人でいいんで。ドリカムだってそうでしたよね。大体女性が1人で男、男っていうのがヒットの法則だったんですよ。それでも長くできたのは松本さんの立ち回りがすごかったから。

あの人は立ち回りの天才なんですよ。

――松本明子さんの立ち回りは、どんなところが凄いんですか?

例えば3人の意見がバラバラになって1対1対1になってもいいし、松本さんが僕について直ちゃんを説得したり、僕を一人にして直ちゃんについて2対1の形になったり、松本さんが全部自由自在に変えられるんですよ。

松本さんは本当の自分の意思というのはどちらでもよくて、面白ければいいんです。普通のタレントだと「私はそういう人だと思われたくない」とか「これをやったら私が悪者になるじゃないか」とか……松本さんは違うんですよ。「いちばん面白いのはどっちだろう」を取るんです。

――松本さんは思考が芸人ですね(笑)。

例えばオープニングで僕が『さ、というわけで今日は釣りです』って言うと、直ちゃんが5分もしたら「つまんない」って始まるんですよ。1時間の番組で5分で「つまんない」はまずいだろうと。今までそういう番組がないんですよ。普通は「とにかく、みんなで力を合わせて釣れるまでやろう!」っていうのが番組ですよ。

直ちゃんが「ああ、つまんない」ってなると、「まぁまぁそう言わずに釣れたら面白いですから」と僕がなだめるじゃないですか。それでまた30分ぐらいしたら直ちゃんが「つまんない」って言ったら、今度は松本さんが「私もつまんない」って言いだすわけですよ。

「ちょちょちょ、待ってくれ。今日の番組は1時間釣りだから!」。そしたら「私だって、つまんないけど我慢してた」って松本さんが言って。直ちゃんが「そうでしょ」って。そうなると「直ちゃん、ごめんね、さっきは嘘ついて。私も最初からつまんなかったのよ」って。それで「ちょっと待てよ!」ってなる。これがまた構造を変える訳です。松本さんがそっち行っちゃうと番組が成立しないじゃないと。

――トリオのコントをみている感じですね。

あっちに行ったり、こっちに行ったりという人間模様を見せてるんです。直ちゃんを発端に全ての立ち回りができるのが松本さんで、その動きによって僕が右往左往するというのが『DAISUKI!』の構図なんですよ。

■安室奈美恵さんは“間の天才”だった!?

――『THE夜もヒッパレ』でも数多くのタレントさんと共演してましたね。

あの番組だと安室奈美恵ちゃんですね。あの子はものすごい感性が優れていて、歌や踊りは言うまでもないんだけども、喋りの間がいいんですよ。喋りが流暢なわけではないんだけど、なんか「ぽそっ」と言う一言の間を、絶対に外さないんです。

例えば一連の流れがあって、「これ俺でオチがくるな」って事前に分かった場合、「俺じゃなくて、安室ちゃんに言ってもらおう」と。それで僕が事前に安室ちゃんにコメントを入れとくんですね。「これがきたら俺がフルから、これ言ってくれる?」って。安室ちゃんも「オッケー」ってなるわけです。

それで僕が「これに関しては安室だよな」ってフッて安室ちゃんが一言、そしたらドン!とウケる。間がいいから見事にバシッと決めてくれて、うまくCMにいけるんです。安室ちゃんは何に関しても素晴らしい才能を持ってましたね。

松本明子さんのような「立ち回りの達人」、安室奈美恵さんのような「間の達人」を「裏回しの達人」である中山さんが、人間関係を見事に構築することで、数々のヒット番組を誕生させていたんですね。

(取材・文:インタビューマン山下)

【PROFILE】

1968年、香川県生まれ。1992年、世界のナベアツ(現・桂三度)とジャリズム結成、2011年に解散。同年、オモロー山下に改名し、ピン活動するも2017年に芸人を引退しライターに転身。しかし2021年に芸人に復帰し現在は芸人、ライター、「山下本気うどん」プロデューサー、個人投資家、ファイナンシャルプランナーとして活動中。

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