ジュノンボーイ出身の俳優というのは不思議なもので、ジュノンボーイだった事実が意外なギャップに感じられてしまう。

33歳ジュノンボーイ俳優、12年ぶりに大河ドラマ出演決定。“...の画像はこちら >>
 キャリアを重ねるうち、どんどん俳優としての凄みを増すからだろうか。
中村蒼は、そんなひとりだ。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、2025年大河ドラマ出演へ期待を込めつつ、ジュノンボーイの“最終兵器”である中村蒼を解説する。

社会派作品の道しるべとして

 いわゆる“社会派”という言葉がある。その時代ごとに移ろう社会の深層に切り込み、真相を求める態度のことだと理解してみる。

 社会派と呼ばれる作品は、制作サイドの取材力や独自の視点が結実した硬派なものとされる。

 すると観客たちは、眉間にシワを寄せて、肩に力を入れながら作品を見る。でも、必ずしも難しい顔をする必要があるだろうか。
そんな疑問を清々しく解消してくれるのが、中村蒼という俳優の存在だと筆者は思っている。

『東京難民』(2014年)や『NHKスペシャル「詐欺の子」』(NHK総合、2019年)など、中村は時代に翻弄されながら生きる主人公を演じてきた。作品内で難しい顔をするわけでもない。どこまでも精悍なたたずまいの彼こそ、社会派作品の道しるべではないだろうか。

ジュノンボーイの隠し玉となる“最終兵器”

33歳ジュノンボーイ俳優、12年ぶりに大河ドラマ出演決定。“硬派で社会派”な俳優道とは
『蒼日和』(主婦と生活社)
 中村蒼がデビューをつかんだのは、2005年。第18回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでのグランプリ受賞がきっかけだった。2006年、15歳のときに主演した舞台『田園に死す』が俳優デビュー作。


 俳優デビュー作でいきなり寺山修司作品かよ。ちょっとびっくりする。でも15歳だから演じられる寺山作品の魅力が確かにある。時代を見つめ続けた寺山のレンズを借りて、デビュー当時の中村が目指した世界は、おそらくどんな社会派作品よりもかけがえがない社会そのものを写していたはずだ。

 デビュー時点で、彼は俳優の立場から社会的役割を担うことを託されてしまった。だからこそ、社会の厳しい現実にあえぐ若者たちの悲鳴を代弁できる。
筆者はそんな中村のことをジュノンボーイの隠し玉となる“最終兵器”だと思っている。

中村蒼の使命とは

33歳ジュノンボーイ俳優、12年ぶりに大河ドラマ出演決定。“硬派で社会派”な俳優道とは
『東京難民』DVD(キングレコード)
 テレビドラマ初主演作は、『BOYSエステ』(テレビ東京、2007年)。ジュノンボーイ出身のイケメン俳優にはお決まりのコースとして、無邪気にイケメンを消費するかのようなキワモノ作品にも出演している。若手を売り出す常と理解すべきだろう。

 でもイケメンが消費されても、中村蒼自体は決して消費されない。なにせ、彼には使命があるのだから。『東京難民』の冒頭場面が忘れがたい。
大学生の時枝修(中村蒼)が、くわえ煙草で郵便を受け取る。

 扉が閉まる瞬間、煙が吹かれ、玄関に充満する空気感がやけに生々しい。煙をまとう修が大学に行く。出席確認のために学生証をタッチするが、ハネられてしまう。

 学生課に確認してもらうと、学費の未納で、除籍になっているという。そんな事情聞いてない。
平凡な大学生の日常が、この瞬間に崩れる。大学生という役柄を超えて、社会の片隅のリアルを中村が一身に引き受けているかのような力強さがあった。

生と死が矛盾しない演技

 2017年に中村は入籍を発表した。同年、子宝にもめぐまれた。家族という社会集団を新たに得た時期に主演したのが、『命売ります』(BSジャパン、2018年)。原作は三島由紀夫。心に穴があいた虚しさから死に憧れる敏腕コピーライターを活写した、いかにも三島らしいテーマだ。


 寺山の『田園に死す』でも夢と現実、生と死の狭間をさまよう少年を演じた中村が、三島作品に主演する流れはよく理解できる。実人生での結婚や子宝など、生きる喜びとは正反対のベクトルを向く主人公を演じる複雑さとは。

 いや、そもそも生と死は相反するのではなく、むしろ同じベクトルを向いている観念なのだ。寺山や三島の作品を貫く基本的な考え方だが、生と死が矛盾しない中村の演技もまた社会の真実に肉迫するものだ。

2025年大河ドラマへの期待

 潜水艦の副長役で出演する『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』(Amazon Prime Video、2024年)もある意味、三島由紀夫的なテーマを象徴する作品だ。日米共同計画である原子力潜水艦シーバットが、艦長・海江田四郎(大沢たかお)によって反旗を翻し、独立を宣言。その右腕が、中村演じる副長・山中栄治。

 白い海軍服の半袖がやけに似合う。任務中、不安な表情を浮かべることは絶対にない。大沢扮する艦長に忠実な眼差しを注ぎ続ける。心身ともに精悍な人物像は、三島好みのサムライのようだ。

 潜水艦内の密室内という狭い社会の中で、外の世界への想像を拡大するような凛々しさもある。

 この最強潜水艦が日米のリーサル・ウェポンであるように、やっぱり中村蒼はジュノンボーイの最終兵器なのだ。

 2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では、横浜流星扮する主人公・蔦屋重三郎の義理の兄・次郎兵衞役での出演が決まっている。

『八重の桜』(2013年)以来、12年ぶりの大河ドラマ出演で、最終兵器としての隠し玉が、中村史上最大の名演となって世に放たれることを期待する。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu