なかでもひと際目を引く存在なのが、松嶋菜々子ではないでしょうか。
※以下、『あんぱん』第4週までのネタバレを含みます。
息子を置き去りに。松嶋菜々子「美しい毒親」から目が離せない
絵本『アンパンマン』の作者・やなせたかし氏の妻である小松暢氏をモデルにした本作。松嶋菜々子は、やなせたかし氏=嵩(木村優来/北村匠海)の母・登美子を演じています。第1週の物語の冒頭、嵩を連れて、亡き夫の兄で医師の柳井寛(竹野内豊)を頼ってヒロインの住む街にやってきた登美子。当初は、凛とした厳しさはあるものの綺麗で優しい母親に見えました。しかし一変、まだ幼い息子に「すぐに迎えにきますからね」と嘘をついて、置き去りにしていくのです。理由は自身の再婚。

かと思えば第3週の最後では離縁された登美子が、8年間音沙汰がなかったにもかかわらず突然嵩のもとへと舞い戻ってくるのです。
朝ドラで毒親はめずらしい? 過去には“震えるほどの毒親”も
朝ドラの父・母はさまざまなキャラクターで登場しますが、だいたいが良き父、良き母――主人公らに“良い影響”を与えることがほとんどです。ダメ父・ダメ兄が愛すべき存在として登場することはありますが、「毒親」とまで言われるケースは稀。だからこそ朝ドラの毒親はより印象に残ります。例えば『スカーレット』(2019年/ヒロイン:戸田恵梨香)で北村一輝が演じた父・常治は、借金があるにも関わらず、大酒飲みで怒りっぽい。亭主関白で、娘の進路や結婚にも自分の都合を押しつけるなど身勝手な振る舞いはなかなかに酷かった。
それを上回ったのが『おちょやん』(2020年/ヒロイン:杉咲花)の父・テルヲ(トータス松本)。酒浸りで、借金はもちろん、再婚相手に言われるがままに娘を奉公に出してしまいます。その後も、借金のカタに娘を売り飛ばそうとしたり、娘の通帳を持ち出そうとしたり。朝ドラ史上最低の毒親でした。

悪女でも憎めないのはなぜ? 松嶋菜々子にしか出せない存在感
そんなイヤ~な母親役なのに、松嶋が放つ圧倒的な美しさからは目が離せません。ここで思い出されるのが、彼女のターニングポイントとなった2000年のドラマ『やまとなでしこ』。
彼女が画面に映るだけで、観る者を釘付けにしてしまう。秀逸な心情描写と、松嶋にしか纏えないオーラによって、凄まじいキャラクターを創り上げています。
胸が痛んだ「去り際のセリフ」、登美子の心情は
母のためにと懸命に難関校を目指した嵩が不合格になり、第20話ではそんな嵩を食卓で囲む柳井家。登美子の険しい面持ちにはひと際惹きつけられました。そこから、まさかのヒロイン・のぶ(今田美桜)に八つ当たりをし、嵩を置いて柳井家を出ていくという毒親っぷりを発揮!去り際、期待外れと言わんばかりの「もういいわ。好きにしなさい」発言には胸が痛みましたが、その意味は「もう私に縛られず好きに生きて」とも取れます。
戸田菜穂とはバッチバチ! 嫌味の応酬はまた見られるのか
嵩の育ての母親・千代子役を演じる戸田菜穂とのバトルも見どころです。特に8年ぶりに舞い戻った柳井家で、登美子が我が物顔でお茶を点てるシーンはバッチバチ! “ハイカラ”なものを好む千代子にお点前がわたると、「お作法通りじゃなくても結構ですよ」とマウントをとる登美子。
前述の『なつぞら』で、戸田はヒロインの生みの母親役を担っており、今回は生みと育ての設定が真逆というのも興味深いです。ちなみに戸田も『ええにょぼ』(1993年)でヒロインを務め、松嶋同様に本作が朝ドラ3作品目の出演。確かな演技力をもつふたりのバトルは見応えがあります。
嵩の受験で一時休戦状態になったふたりですが、このまま決別なのか。またいつか登美子が舞い戻り、再びバトルを繰り広げてくれるのでは? と期待しているのは、筆者だけではないはずです。
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とにかく豪華なキャストの名演が光る『あんぱん』。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201