令和のバレエ・コミック(喜劇)とも呼ぶべきドラマ『バレエ男子!』(MBSドラマフィル枠にて放送された)では、戸塚純貴演じる主人公を中心に3人のバレエ男子たちの生態が細やかに描かれた。

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 本格的なバレエ場面を吹き替えではなく、バレエ初挑戦の俳優が自ら演じて踊れるよう監修・指導したのは、世界を舞台に躍動した元バレリーナ・草刈民代である。


『Shall we ダンス?』(1996年)で映画初出演・初主演を果たし、バレリーナ引退以降、女優として活躍する草刈民代さん。男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、前後編インタビューでお届け。

 後編ではネット上で話題になったInstagram投稿から「綺麗でいようと思うか思わないか」と語る美容の秘訣など、ライフスタイルについて聞いた。

美容の秘訣は「綺麗でいようと思うか思わないか」

――草刈さんがバレエ監修・指導を担当した『バレエ男子!』第5話と第6話放送日の間にネットニュースで話題になっていたInstagram投稿(6月3日)について聞きます。『Shall we ダンス?』の全米リバイバル上映イベントでニューヨークを訪問した草刈さんが「地下鉄の中。すっぴんのまま、気ままにお散歩」とキャプションを付けているのに対してネット上では「お肌ツルツル」などさまざまなコメントが散見されました……。

草刈民代(以下、草刈):あれはものすごいインプレッション数をいただきました(笑)。

――美容の秘訣や心がけていることを知りたい読者がたくさんいると思います(笑)。

草刈:美容の秘訣ですか(笑)。バレリーナ時代の私は舞台や稽古、トレーニング、体のメンテナンスに時間を取られて、肌ケアにはまったく気を遣っていられませんでした。完全に体育会系で、「舞台に立てば顔は体の一部」という感覚だったのです。踊っていた頃は、体の疲れやストレスもあって、吹き出物が出ることも多くて。でも、俳優って画面に顔が大きく映るじゃないですか。
そうなると、肌トラブルって目立つんですよね。

実は私、女優として本格的に活動し始めたのは『Shall we ダンス?』というよりも、2009年にバレリーナを引退してからなんですけど、俳優の仕事を重ねるうちに、「女優にとっての肌は、バレリーナにとっての筋肉のようにケアしていくべきものなんだ」と思うようになりました。

吹き出物って、ケガのように直接、動きに支障が出るわけではないけれど、見る側にとっては、そこに目がいってしまうことで芝居への集中を妨げてしまうこともある。そういうことが、俳優の仕事を通じて、だんだんわかってきたんです。踊っていた頃の私は、疲れると本当に吹き出物がひどくて……あんな肌で画面に出ている女優さんなんて、たぶんいないと思います(笑)。それくらい、ひどかったんですよ。

身体の技術によって表現されるバレエでは、体のラインや動きの美しさが土台になりますが、女優に求められる美しさはまったく別物だと思うようになりました。それに、年齢を重ねてくると、表面的なことだけを追いかけるのでは、もう満足できなくなってくるんですよね。色々な側面から「自分にとって大事なことってなんだろう?」と、さらに深く考えるようになりました。それで、美しさの意味合いも、少しずつ変わってきた気がします。

私くらいの年齢になると、若い頃のように「綺麗になりたい」と思う人は、まずいないでしょう。でも、「綺麗でいよう」と思えるか、思えないかで、日々の感じ方や、生き方そのものが大きく変わってくるんじゃないかとは思います。


年齢に対するイメージの刷り込み

「シニア料金だけど、まだおばあさんじゃない」草刈民代が明かす“60歳のリアル”と戸惑い
草刈民代
――なるほど、やはり気持ちが一番大切なわけですね。

草刈:そう。気持ちが一番大切。私は、自分にとっての「綺麗さ」「美しさ」ってなんなんだろう、と再定義したくなりました。60代になると公共検診がタダになったり、割引になったりするようになるし、映画だってシニア料金になるわけです。世間ではもうおばあさんなんだよと線を引かれるところがある。でもまだおばあさんじゃない(笑)。これ私が感じるだけなのかもしれないけれど、やはり60代から老人というイメージの刷り込みは強烈なんじゃないかと思うんです。

でも、世の中のシステムは変わってないけど、時代はまったく変わってきている。おそらく、今の中高年層の人たちは昔の人たちと比べると感覚が10年くらい若いのではないかと思うし、スマホが使えなければ世の中で機能できなくなるようになってきているわけだから、この歳になって学ばなければならないこともたくさんある。

私は自分自身が60歳になった今の感覚と、今まで刷り込まれてきたイメージがあまりにもかけ離れていることに気づき、まだ戸惑っています。もうシニア料金なのにこのままでいいんだろうかみたいな(笑)。でも実は、みんなこんなものなのかもしれない。
これが60代のリアル。若い時からこういう話を聞いておけば、60代になった時に役立ちますよ(笑)。

――地下鉄写真は『Shall we ダンス?』がきっかけで結婚した周防正行監督とのツーショットでもありますが、監督もとてもお肌ツルツルです(笑)。

草刈:夫は数年前から急に化粧品を使うようになりました(笑)。彼は筋金入りのヤクルトスワローズファン。なので、会社を応援するためにもヤクルト化粧品を使ってます。「小綺麗なジジイになる」と言って毎日肌のお手入れしてます(笑)。

バラエティー番組に臨むスタンスは

「シニア料金だけど、まだおばあさんじゃない」草刈民代が明かす“60歳のリアル”と戸惑い
草刈民代
――最近では、野呂佳代さんとの『世界頂グルメ』(日本テレビ系)フィレンツェ旅(2025年2月19日放送回)など、バラエティー出演も多い草刈さんですが、食レポなど含めバラエティー番組に出演するときはどんなスタンスなのでしょうか?

草刈:基本的には何も考えず、番組のディレクターさんからご指示いただいたことを楽しみながらやらせてもらっています。私はどんなことでもやってみたいタイプです。『世界頂グルメ』は野呂佳代さんが私を指名してくれました。

野呂さんとは本当に仲良くなりました。それまではバラエティは専門外と思っていたので、どのようにいたらよいのかよくわからないところがありましたが、野呂さんとの旅は心から楽しむことができました。

――あるいは、『ぽかぽか』(フジテレビ系、2025年5月7日放送回)では甥っ子さんたちがVTR出演して草刈さんを「ジャイアン」と形容していましたね。
たしか甥っ子による「ジャイアン」形容の初出は、『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)内で放送されていた「本音でハシゴ酒」(2019年8月9日放送)出演回だったかと思います。


草刈:これは声を大にして言いたいんだけれど、それは甥っ子たちに対する妹たちの刷り込みです(笑)。でも子どもの頃、妹たちに対してはジャイアンみたいなところがあったと思うので、それは否定しない(笑)。

「やっとラクに、楽しみながらやっていいと思えるように」

「シニア料金だけど、まだおばあさんじゃない」草刈民代が明かす“60歳のリアル”と戸惑い
草刈民代
――バラエティ面での草刈さんのイメージが新たに広がっています。

草刈:踊っている時からいろいろな経験をさせていただいていますが、やっと、ラクに、楽しみながらやっていいと思えるようになりました。

――その意味では『バレエ男子!』監修・指導は、バレリーナと女優というふたつの立場を掛け合わせた集大成かと思いますが、この先の展望を教えてください。

草刈:その年代に合った集大成をいくつかやりたいと思います。一つは若い人たちのためになるようなこと。あとはやって意味があると思えること。その二軸から目指したいことはいくつかあります。人それぞれ、その世代ごとに、その時だからこそできることがあると思うんです。

『バレエ男子!』の仕事はまさに今だからできたことです。
この先も様々なことが起こると思うけれど、自分にとって必要なことは逃さずに、なるべく納得した形でやり遂げたいですね。お芝居にしてもこの年でないとできないことや、この年だからこそできることを。

そのためには常に更新する意識が何より大切だと思っています。もう60歳なのだから、エネルギーが枯渇していくのはあたりまえ。でも、これまで自分が培ってきたものを、ここぞという時に活かすためにも、枯渇させない工夫が必要と思っています。そして、変化の大きな時代にどのように生きていくのか。年齢問わず、この時代だからこそ発揮できるものがあるはずです。これからも、アンテナを張り巡らせて、自分を磨いていきたいですね。

<取材・文/加賀谷健 撮影/鈴木大喜>

「シニア料金だけど、まだおばあさんじゃない」草刈民代が明かす“60歳のリアル”と戸惑い
「バレエ男子!」


©「バレエ男子!」製作委員会・MBS

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「バレエ男子!」


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「バレエ男子!」


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【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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