亡き夫・次郎(中島歩)がきっかけで興味を持った速記のスキルを磨くため、闇市にいる人々の会話を“盗み聞き”している朝田のぶ(今田美桜)に興味を持ち、「君のような人を我が社は待っちょった。採用」と口にして名刺を渡す。
「理想の上司ランキング」上位確実の存在感
第65回では、その言葉を信じて高知新報を訪れたのぶだったが、東海林は酔った勢いで「採用」と口走ったようで、そんな記憶も権限もないという。諦めて帰ろうとするのぶに東海林は入社試験を受けることを提案。後日、試験の面接時に高知新報の編集局長・霧島(野村万蔵)から、過去に“愛国の鑑”として祭り上げられたことを問いただされる。のぶが面接室を去った後、のぶの採用を見送ろうと考えている霧島に対して、東海林は「世の中も、俺も、あんたらも、変わらんといかんがじゃないですか」と説得。そして、「責任は俺が持ちます」と言い切ってのぶの就職を後押しした。
第66回ではのぶが書いた記事を酷評するなど、仕事に対する厳しい姿勢を見せる。ラストではのぶが徹夜で仕上げた原稿を手に取り、「ダメやな。お涙頂戴の記事らあて鼻紙にもならん」と口にするが、「温度のある記事や。これを明日の朝刊に載せる」と、まさかの一度落としてから持ち上げるツンデレ発言。
さらには、「夕方まで待っちゃるき、いっぺん帰って寝たら、もうちっと短うして持っておいで。40行や。
“ぽっと出”の東海林がここまで歓迎されている要因
東海林というキャラは登場して間もないにもかかわらず、早々に視聴者に受け入れられている。その背景としてやはり津田の演技力があまりにも大きい。まず東海林の魅力は、仕事への情熱と、酔って記憶を飛ばすなどの“ドジっ子”ぶりが織り成すギャップにある。ただ、ギャップによって人気を集めるキャラは多い。ここで特筆すべきなのは、東海林の登場回数がまだとても少ないということ。
朝ドラという形式にぴったりはまる演技
ではなぜ、津田が描くギャップに魅了されたのだろうか。津田は声優として長く活躍しており、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』ではカードを破いて捨ててしまう偉そうな若社長・海馬瀬人、『TIGER & BUNNY』では“オネエ口調”が特徴的なファイヤーエンブレム/ネイサン・シーモアを演じるなど、幅広い個性を持つキャラクターの声を演じてきた。声での表現力の高さにより、キャラがどのような性格をしているのかをより強く、より鮮明に視聴者に伝えることができる。

このテンポ感が演技のくどさを緩和し、むしろ“インパクトの強いキャラ”として魅力を高めているように思う。もちろん、その絶妙な塩梅で表現している津田のスキルがあってこそだが、朝ドラとの相性の良さも東海林を歓迎する空気を作れたのではないか。
「ノイズを感じない」俳優・津田健次郎の魅力
また、津田が広く支持されている要因を深掘りしたい。ひとことで言えば、津田からは“ノイズを感じない”ことが大きいのではないか。津田は現在54歳とベテランの域に入っている。50代で今も活躍している二枚目俳優は、若い時にヒット作に出演しており、どうしても今の出演作を見ると過去の影がちらついてしまう。加えて、若い時にはポジティブ・ネガティブに関わらず、何かしらのスキャンダルを経験している傾向が高い。
また、今でこそ声優は人気かつメジャーな職となり、声優関連のスキャンダルもちょくちょく目にするようになったが、それはつい最近の流れだ。これまで“実写”としての露出が少なかったからこそ、過去作やスキャンダルといったノイズが入りにくく、津田が演じるキャラを穿(うが)った見方をせずに観ることができる。54歳ながらも視聴者にはフレッシュに映る津田が、『あんぱん』をはじめ、俳優として今後どのような役を務めるのかも期待したい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki