国民的バンド、Mrs.GREEN APPLEのボーカルであり、『#真相をお話しします』(2025年)で俳優デビューしたばかり。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、満を持して初登場してレギュラー出演者となった大森元貴を解説する。
新たな贅沢レギュラー出演者
第17週第85回の告白編、第18週第88回のプロポーズ編を経てやっと結婚した主人公・柳井のぶ(今田美桜)と柳井嵩(北村匠海)が、夫婦の絆を強固にしながら、朝ドラ『あんぱん』は着実にクライマックスに向かっている。のぶと嵩が結婚なんてまだ夢にも思わなかった本作前半部、加瀬亮、竹野内豊や吉田鋼太郎などなど魅力的過ぎるベテランたちが、それぞれの味わい、その味気成分を見事な名演で抽出してくれた。名優たちによる演技の抽出じゃぶじゃぶの出汁が、後半部の画面でもまだ芳醇に香ってくる。
その上、嵩役の北村匠海の演技。毎回いちいちうま過ぎる。これ以上の合わせ出汁だと画面上が贅沢であふれかえる。というかこれ以上は贅沢になりっこない。と思っていたら、あぁ、この人の存在をすっかり忘れていた。新たな贅沢レギュラー出演者として、満を持して登場した大森元貴である。
カメラが引いて気になる人物が……

初登場までさすがにひっぱりにひっぱったなと感じつつ、それだけに用意周到な初登場場面が期待値を軽く超えてくる。
場面のワンカット目、劇団の座長・大根(青柳翔)の顔のアップがカメラに正体して写る。芝居の説明を聞く嵩の顔のアップも切り返され、カメラが引いて二人を横から捉えるツーショットになる。被写体に正体して周囲の情報をほとんど写り込まないようにしていたカメラがポンと引いて気になる人物が……。
エキストラにしては存在の主張が激しい
画面奥にカウンター席がある。常連客らしい学生服の男性が一人座っている。エキストラにしては存在感があるというか、自分が「ここにいるぞ!」といった存在の主張が激しいその背中。画面手前で意気投合する嵩と大根の会話内容が入ってこないくらい、背中の男性が気になる。その男性は何となく二人の会話に聞き耳を立てているような気もする。すると大根が「絶対に芝居の世界に飛び込もうと思ったんだ」と言った途端、背中の男性が明らかに右耳をカメラ側に向ける。やっぱり会話を聞いていた。当然エキストラでもなかった。
嵩が「なるほど」と相槌を打つと、乾いた音の効果音が鳴り、聞き耳を立てる男性にカメラが寄る。
嵩と大根の会話に全面的に共感して、興奮気味にドンと軽快にカウンター席に左手をついて立ち上がり、カメラ側に顔を見せる。「あ、大森元貴だぁ!」と誰もが指を差して喜ぶような初登場の瞬間があざやか。
朝ドラ初出演でスター歌手のケレンミがあふれる

彼がしゃべるだけで楽しげな雰囲気がある。明るいキャラクター性は例えば、第65回日本レコード大賞を受賞した「ケセラセラ」などミセスの代表曲が体現する幸せ色が源泉になっているのかもしれない。
実際、大森が演じるいせたくや役は作曲家という設定だけではなく、実際の画面上でも音楽的なキャラクター性を発揮する。朝ドラ初出演であるからには、主戦場とするミュージカルなスキルを披露しない手はない。
『あんぱん』公式Instagram上にアップライトピアノ前の大森が演奏するオフショットが投稿(8月5日)されるや、大森ファンのコメントでわいた。
「本当に演奏してたんだ」といったコメントがあるように、第92回でのど自慢に出場しようとするのぶの妹・メイコ(原菜乃華)の練習にいせたくやが付き合う場面がある。
第94回でカウンター席で嵩と並んで座る場面では「音楽でたくさんの人を幸せにしたい」とたくやは言う。陽気で洗練され、脱力した大森元貴というスター歌手のケレンミがあふれる演技を見て、「ケセラセラ」(スペイン語で「なるようになるさ」を意味)と思わず明るく口ずさみたくなった。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu