女優の加藤ローサ(40歳)さんが、サッカー元日本代表の松井大輔さん(44歳)と離婚していたことを公表した。結婚して14年、13歳と11歳のふたりの男の子がいる。
長男を出産したのはフランス、その後は夫の移籍にともなって、ブルガリアへ。さらに次男を妊娠中にポーランド、そして帰国して出産とめまぐるしく変化する生活を送ってきた。

 少し前に「離婚」したが、その後も同居生活は続けていると話したため、「離婚しても同居!? 意味ある?」「何が変わったの?」とネット界隈で話題となった。元夫の松井氏は出演番組で「紙だけの問題で、特に何も変わっていない」と語っている。

離婚後の同居は珍しくない? 加藤ローサの“解放”

加藤ローサの選択「離婚しても同居」は珍しくない? “紙切れ1...の画像はこちら >>
 だが……彼女にとっては「大きな変化」に違いない。婚姻届という法的な背景がなくなっただけで、おそらく彼女は「加藤ローサというひとりの人間」であることを再確認しているだろうから。離婚していても、対子どもという意味では、父親と母親であることに変わりはない。ただ、その「父親と母親」の間から、夫婦関係が解消されたのだ。彼女は母として子どもに接すればいいだけ。「妻」、そしてひょっとしたら「嫁」の役割からは解放された。

 実は離婚後も同居しているケースは、驚くほど珍しいわけでもない。多くは子どものために「家庭」という形を保ったほうがいいという判断からだ。離婚を決めるときは、夫と妻の間できちんと話し合いがなされている。
つまりは、「憎み合っての離婚」ではないのだ。憎悪と恨みが積み重なっていれば、おそらく女性は子どもを連れて家を出てしまうはず。夫婦関係を継続する意思はないが、子どもたちを最優先させながら、両親がそばにいる家庭を維持する決断を下したのだ。

 加藤さんは以前から、「40歳」という年齢をターニングポイントにしていた節がある。40歳になったら「自分」を大事にしたいとインタビューでも語っている(「STORYweb」2025年1月1日)。

「何も変わらないパートナー」と「すべてが変わった自分」

 26歳で結婚してから、彼女はずっと夫の生き方に自分を追従させてきた。サッカー選手と結婚したのだから当然だと思っていただろう。海外での出産も、海外を転々とすることも、こういう人と結婚した自分の使命だと感じていたかもしれない。

 だが夫は引退後も、サッカー教室などで全国を飛び回っている。ある日ふと、「この人は何も変わっていない」「この人と結婚したために私の人生はこれほど変わったのに」と思っても不思議はない

 これは一般論だが、そもそも結婚したことで人生が大きく変わる可能性を常にはらむのは女性のほうだ。多くの女性が結婚後は「夫の姓」を名乗るようになる。結婚したことで自分のキャリアが延滞することもある。
子どもを産めばなおさらだ。一時期、仕事を中断したり辞めたりせざるを得なくなる女性が、どれだけいるだろう。

 重ねていうが、もちろん、相手と結婚することは女性本人が選んだこと。それでも「何も変わらないパートナー」と、「すべてが変わった自分」をある日ふと比べてみると、「なんだこれ」と疑問が生じてくることもあるはずだ。

 多忙な子育てと家事に追われる日常の中で、女性が「40歳になったら自分をもっと考えよう」と思うのはごく自然なことではないだろうか

「紙切れ1枚」に縛れられ続ける女性たち

 婚姻届を「紙切れ1枚」と言う男性はいるが、その紙切れ1枚に、どれだけ女性たちが縛られているだろう。「○○さんの妻」「○○さんの嫁」「○○ちゃんのママ」と呼ばれ続け、「私は私だ」と叫びたくなることもあるのではないか。子どもたちが自分の意思を持ち始めた今なら、呪縛から逃れて「個人名をもったひとりの人間」としての再スタート地点に立つことができるかもしれないと思っても不思議はない。

加藤ローサの選択「離婚しても同居」は珍しくない? “紙切れ1枚”で女の人生はどう変わるのか
写真はイメージです(以下同じ)
 45歳のときに離婚届を出し、その後、下の子が大学に入学するまで5年間、「それまでと同じ形での生活」を続けたマリさん(52歳・仮名)がこう話してくれた。

「離婚届を出して、肩の荷が下りたような気がしました。もちろん子育ての責任はまだ続くけど、夫を見ながら『この人の妻ではなくなった』とうれしかった。夫と同じ空間にいるのが嫌というほどではなかったけど、価値観も将来への展望も合わない人と夫婦でいるのがつらかったんです。離婚届を出して、これで他人だと思ったら、なんとなくイラッとすることも放置できるようになったので、離婚後の同居家庭は穏やかでしたね」

 離婚後、彼女は子どもたちの協力を得て、仕事を続けながらキャリアアップのための勉強もオンラインで始めた。
自分ががんばればがんばるほど、「やっぱり夫はいらない。子どもたちの父親としてだけ存在してくれればいい」という思いが強まったという。

変化を続けるしかない妻は、強くたくましくなっていく

 結婚した時点で、大きな変化を余儀なくされる妻は、その後も望むと望まないとに関わらず変化を続けていくしかない。そしてその変化の中で、妻は強くたくましくなっていくのかもしれない。結果、子どもが大きくなったころには夫とは相容れない気持ちが強まっている。

加藤ローサの選択「離婚しても同居」は珍しくない? “紙切れ1枚”で女の人生はどう変わるのか
夫婦
 もし結婚生活の中で、「ともに歩めている確かな感覚」があれば、夫婦としての今後の展開も見えていた可能性はある。あるいは夫が「変化を続ける妻」に少しでも歩み寄ろうとしてれば……。だが考えてもしかたがない。

「うちは離婚から5年たった50歳のときに、家族が完全にバラバラになったけど、不思議なことに今も、たまに4人で集まって食事をしたりしているんですよ。あのまま離婚せず、私ひとりが我慢を続けていたら、今の家族関係はなかったと思います

いい母、いい妻だった女性たちが「年配になったとき」

 女性が我慢をし続けるのが当たり前の時代ではなくなった。マリさんの母親は80代になったところだが、「横暴な夫に耐え、我慢しながら子ども3人を育てた母」だった。ただ、我慢をし続けたのだろう、自分の本当の気持ちや欲求を見失っているのだという。

 いい母、いい妻だった女性たちにありがちだが、年配になったとき精神的に誰かに依存しなければ生きていけなくなっている女性は少なくない
自らの決定権を抑えつけてきたからだろう。小さなことさえ決断できないのだ。マリさんの母もそうだという。

加藤ローサの選択「離婚しても同居」は珍しくない? “紙切れ1枚”で女の人生はどう変わるのか
調理する高齢女性の手元
「父が亡くなってひとり暮らしになった母を、よく食事に誘うんですが、本当に小さなこと、たとえば何を飲むか、何を食べるかということでさえ自分で決められない。聞くと『あんたは?』と言う。私に合わせようとするわけです。自分の飲みたいもの、食べたいものを言えばいいのにと迫ったら、『わからないの。そんなふうに考えたことがないから』と」

 常に夫や子どもたちに合わせる人生を何十年と送ってきたので、自分の欲望のありかが見えなくなってしまったのだろう。

「私はああはなりたくない。そう思っています」

 自分には決断する権利がある。自分の人生は自分で選択して決めて歩いていく。そんな決意のもとの「離婚」を選ぶ女性が増えるのは喜ばしいことではないだろうか。


<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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