「甘噛み写真」は演出か暴走か? 賛否両論の炎上劇
問題となっているのは、アルバム『Alter Ego』の収録曲「Dream」のMVのオフショット。ベッドで腕枕をしたり、LISAが坂口の腕を甘噛みしたりする写真がLISAのInstagramで公開されると、批判の声が殺到したのです。LISAと坂口では世界的な認知度に差があるので、「権力差のある仕事相手からのセクハラにあたるのではないか」や、「距離感がおかしい」、「男女逆なら大問題」、さらには「性加害ではないか」という声まであがっていました。
最近では韓国での活動が増えている坂口にとって、LISAとの共演は絶好のチャンスでしたが、思わぬ形でケチがついた格好です。
また、LISAとしてもグループでアサヒスーパードライのCMキャラクターに起用され、さらに日本での人気が高まるかと思った矢先に軽くつまずいてしまった、というところでしょうか。
MVはドキュメント仕立ての恋愛劇——すべては計算された表現
というわけで、「Dream」のMVを観たうえで改めて一連の写真を振り返ると、これらの批判は的外れと言えます。まず、“BLACKPINK LISA”の名のもとに発表された表現は全てプロフェッショナルな商品であり、たとえプライベート風な雰囲気だったとしても、そこにはLISA、坂口、両者の相互利益が成立していると考えるのが自然だからです。
「Dream」のMVでは、曲が流れるときの恋人同士の演技のほかに、音楽が止まり韓国語と日本語で会話をするシーンが挿入されています。これが実に生々しいのです。二人の日常生活を隠し撮りしたぐらいの温度感で、ほとんど演技であることを忘れてしまうぐらいの距離感なのです。
しかし、そういう恋愛リアリティーショーのような構図でさえ演出の一部なのですから、MVにまつわる様々な表現方法は全て「Dream」という曲の世界観を補強するために工夫されているものです。
SNS投稿すら作品の延長線上にあるという視点の重要性

当然、それはコンセプトを理解して出演している坂口健太郎も承知していると考えるべき事柄であり、つまり腕を甘噛みされることがセクハラであるはずもないのです。
また、「BLACKPINK」というアーティストの特性を考える必要もあります。
そう考えると、日本のファンが「セクハラだ」とか「男女逆だったら大問題だ」と騒ぎ立てているのは、このBLACKPINKのコンセプトがLISAのソロ活動においても一貫していることを証明している、とも言えます。
LISA批判に滲む嫉妬とスターの証明

それにしても、ここまで人間臭い“女性”を演じきれるアーティストが、日本の音楽シーンにいるでしょうか?
LISAに対して巻き起こった批判や炎上は、羨ましさの裏返しだったのではないか。坂口健太郎の足の甲に乗ってダンスをするLISAに、世界的アーティストの格を見ました。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4