7月2日深夜から放送開始した新ドラマ『夫婦と16歳~狂気の隣人~』(テレビ東京系、木曜深夜24時30分~)。現在『少年ジャンプ+』でインディーズ連載中の、ぱんぷきん氏による漫画『夫婦と16歳』が原作だ。


実年齢61歳なのに、心は“16歳の美少女”。「極妻」女優の怪...の画像はこちら >>
自分自身を「16歳の美少女」と信じ込んでいる主人公・白石美子(かたせ梨乃)が、隣の家に暮らしている既婚者のイケメン会社員・野村紘(豆原一成)に恋をし、執拗な猛アタックを繰り返す姿を描いた“禁断のラブストーリー”である。

美子は一人二役ならぬ“二人一役”

「自認16歳の女性が孫ほど年の離れたイケメンに恋をする」という切り口はインパクト抜群で、放送前から話題を呼んでいたが、放送内容もその期待を超えるものだった。正直“出オチ”になりかねない設定だが、ちゃんとドラマとして見ごたえのある作品になっていた要因として、やはり美子役のかたせ梨乃の怪演が挙げられる。

ドラマの序盤は“美子視点”で描かれており、少女姿の美子は現在20歳の林芽亜里が演じる。美子は紘に手料理のお裾分け、部屋の片づけ、風邪の看病などをし、まるで母親のような顔をして紘との距離を詰めていく。不器用ながらも甲斐甲斐しいその姿は昭和の恋愛ドラマの主人公そのもの。どこか懐かしさを感じ、美子の恋路を応援したくなる。

プリキュアに憧れている少女のような幼さ

ただ、終盤にかけて“美子視点”は剥がれ、“現実視点”になると、そういった感情は一気に消滅。ぶりっ子声で紘と接する“かたせバージョン”の美子は、背筋をぞわっとさせ、じめじめした季節にはぴったりだ。わざと転んだ際に差し伸べられた紘の手を撫で回すように握ったりなど、ちゃんとおっかない。

ラストには松本伊代の名曲『センチメンタル・ジャーニー』を、美子がダンス付きで歌唱する恐怖映像もドロップ。眼球にこびりつく可愛らしい美子のアイドルっぷりに胸がゾワゾワする。

かたせと言えば『極道の妻たち』シリーズが代表作として挙げられる通り、これまで凄みや威圧感を漂わせる怖い役柄を数多く演じてきた。怖さのベクトルが異なるだけで、美子もかなり“怖い存在”ではある。
それでも、積み上げてきたキャリアがあるからこそ、かたせ演じる美子にはギャップが生まれ、見応えをより一層強めている。

なにより、演技の振り切り方も気持ちいい。美子は自認16歳ではあるが、ファッションから話し方まで、16歳のそれでもない。“プリキュア”に憧れている少女のような幼さがある。とはいえ、「高齢女性が小学生のフリをする」みたいなコントっぽさもない。ドラマの世界観に溶け込んでおり、浮かない程度の異質感を出せるのは役者としての技量の高さだ。そのバランス感覚が、美子に可笑しさと恐ろしさを与えているのだろう。

ゾッとさせられた……もう1つの“怖い要素”

かたせの演技に背筋が凍らされたが、ゾッとさせられた要因がもう1つある。美子は40歳近く年の離れた紘に本気でアプローチしているわけだが、こうした大きな年齢差を伴う一方的な感情の暴走は、決してフィクションだけのものではない。

現実問題として、高齢者が若い人に好意を抱き、ストーカー化する事件は珍しくない。誰にでも笑顔で接客しているコンビニ店員に対し、「自分に好意があるのでは?」と身勝手な妄想を膨らませ、ストーカー行為に発展するケースはSNSなどでも度々目にする。

ただ、こうした事件の多くは男性が加害者となるケースが目立つ。
本作のように高齢女性が年下男性へ迷惑極まりない恋愛感情をぶつけるパターンはあまり聞かない。だからこそ、本作は“生々しさ”が抑えられ、エンタメとして一定の距離を置いて楽しむことができる。

とはいえ、美子の“奇行”を見ていると、「今もどこかで高齢者に恋愛感情を抱かれ、苦い表情を浮かべながらその“好意”を払いのけている若者も多いのでは?」という想像が頭に浮かび、そのことにもギョッとさせられた。そして、恋愛には性別も国籍も年齢も関係ないことは間違いないが、「少なくとも相手が望んでいないのであれば、年齢差が大きい場合は特に、恋愛感情を一方的に表出しないこともマナーなのではないか?」と、多様性が叫ばれる時代に逆行していそうな疑問を、思わず抱いてしまう。

いろいろな意味で恐怖心を与える『夫婦と16歳~狂気の隣人~』。夏にマッチした内容で、注目したくなる。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
編集部おすすめ