(台北 27日 中央社)台湾の非政府組織(NGO)、中華文化総会は昨年から、伝統を守り続ける職人にスポットを当てた3~5分間のドキュメンタリーフィルム「匠人魂」シリーズを制作し、インターネットで公開している。同会の李厚慶副秘書長によると、視聴者に伝えたいのは技術ではなく、台湾文化の味わいをかたくなに守る職人たちの生き方。
最新作「千金一刻」の主役は、1910(明治43)年創業の「金和貴銀楼」(台北市万華区)3代目、鍾春忠さん(75)だ。

銀楼とは、中華圏によく見られる、金を中心に扱う個人営業の貴金属店。元来自作の装飾品を販売するのが主流だったが、1980年代以降は機械化が進み、手作りは徐々に衰退していった。現在、万華一帯で手作りにこだわり続けているのは、金和貴1軒だけとなっている。

祖父の代から受け継いだ精神と技法を守り続ける鍾さんが金細工職人として今でも大切にしているのは、日本統治時代に使われ始めた「花簿」と呼ばれる見本帳。かんざしやブレスレット、ネクタイピンなどのデザインが記されており、顧客はこれを参考に注文していたという。
鍾さんは、図案はどれも精緻で、手作業でなければ細部の美しさを表現することはできないと胸を張る。

もう一つ、鍾さんを支えているものがある。父親が生前よく言っていた「カネ本位ではなく、金本位」という一言だ。起伏が激しい金相場とは一線を画し、職人は職人らしく本分を守って生きるべきという態度を表しているという。

作業場で働く鍾さんの姿は、「千金一刻」のほか、台湾映画「10+10」(2011)の中で見ることができる。同作品は台湾の映画監督20人が5分間ずつ制作を担当したもので、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の担当パート「黄金之弦」に金和貴銀楼が登場する。
鍾さんは、今でも日本や香港の観光客がわざわざ店を訪れると語り、にこやかにほほ笑んだ。

(汪宜儒/編集:塚越西穂)