銀楼とは、中華圏によく見られる、金を中心に扱う個人営業の貴金属店。元来自作の装飾品を販売するのが主流だったが、1980年代以降は機械化が進み、手作りは徐々に衰退していった。現在、万華一帯で手作りにこだわり続けているのは、金和貴1軒だけとなっている。
祖父の代から受け継いだ精神と技法を守り続ける鍾さんが金細工職人として今でも大切にしているのは、日本統治時代に使われ始めた「花簿」と呼ばれる見本帳。かんざしやブレスレット、ネクタイピンなどのデザインが記されており、顧客はこれを参考に注文していたという。
もう一つ、鍾さんを支えているものがある。父親が生前よく言っていた「カネ本位ではなく、金本位」という一言だ。起伏が激しい金相場とは一線を画し、職人は職人らしく本分を守って生きるべきという態度を表しているという。
作業場で働く鍾さんの姿は、「千金一刻」のほか、台湾映画「10+10」(2011)の中で見ることができる。同作品は台湾の映画監督20人が5分間ずつ制作を担当したもので、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の担当パート「黄金之弦」に金和貴銀楼が登場する。
(汪宜儒/編集:塚越西穂)