(ニューヨーク 9日 中央社)小説「自転車泥棒」で英国際ブッカー賞候補に選ばれた台湾の作家、呉明益さんが7日、米ニューヨークで座談会に出席した。戦争の歴史を背景としている同作にからみ、両岸(台湾と中国)関係について質問されると、現在の対立は中国が台湾の文化を理解していないことに基づくとし、台湾の次の世代の本質は時間に伴い変化していると語った。


座談会は駐ニューヨーク台北文化センターと米ペンクラブ「アメリカ・ペン」が共同で開催。「戦争への瞑想」と題し、呉さんに加え、フランスのロラン・ゴデさんやイラク出身で米国在住のサイナン・アントンさんら各地の作家が招かれた。

「自転車泥棒」では、父親の失踪とともに消えた自転車に20年の時を経て再会した主人公が、その自転車の20年間の足跡を辿っていくというストーリーを軸に、1941年の旧日本軍によるマレー半島侵略や、戦争に翻弄されて最後に台湾にたどり着いたアジアゾウ「林旺」(リンワン)などの歴史が織り交ぜられる。

8日に駐ニューヨーク台北経済文化弁事処で取材に応じた呉さんは、作品が放つ強烈な台湾アイデンティティーについて、現代の作家は世界文学の教養を身に付けたせいで、独自性を失ってしまいがちだと言及。その上で、土着化すればするほど世界で独特の地位を築くことができ、注目をされると話す。

今後の作品に関しては、テーマが世界的なものであっても、素材は必ず土着性のあるものにすると明言する。
呉さんが次回作として書こうとしているのは、東部・花蓮県秀林郷和平村に関する物語。第2次世界大戦中に旧日本軍が台湾で掘った坑道と1990年代にセメント産業が東部に移転された歴史的背景を組み込むという。まだ執筆は開始していないものの、構想は6、7年前からあったと明かした。

(尹俊傑/編集:名切千絵)