同賞の開催は初。
「台湾漫遊録」は日本統治下の1938(昭和13)年の台湾を舞台に、日本人作家と台湾人通訳が二人で鉄道旅行をし、仲を深めていく姿を描いた作品。植民地において、統治する側とされる側の関係についても描かれた。同賞審査員団は「巧妙な文学的アイデアと豊かで細やかなグルメの描写を融合させた傑作であり、植民地主義の深まる経験によって、友情と愛情に対する既存の認知を覆した」と評価した。
作者の楊さんは韓国・ソウルで開かれる国際ブックフェアに参加するため、授賞式に出席することはできず、ビデオメッセージを寄せた。より軽やかな形でこの作品を執筆し、植民地政権やその後に迎えた新たな植民地政権を前に台湾人がどのような選択をしたのか、心の内ではどのような葛藤があったのかを伝えたいと話し、「『台湾漫遊録』を読んだ後に、心から『台湾に行きたい』と思ってもらえるようになれば」と願った。
金さんは、同作は帝国主義や植民地、ジェンダー、人種差別などの重いテーマを直視しているものの、楊さんは食べ物や、ロマンチックでユーモラスな言葉遣いで残酷な歴史を伝え、読者に内容を消化させていると紹介。それと同時に、歴史は日常によってつくられるものであり、日々には辛いこともあればうれしいこともあり、植民地時代や戦争時には幸せが思い出をより苦くする場合もあるということを人々に思い起こさせていると話した。
(廖漢原/編集:名切千絵)