狭い隙間を潜り抜けられる特技を持つ猫だが、高さはわかっても幅がわからず失敗することも
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 猫は狭い隙間でもスルリと潜り抜けることができる。猫は個体でもあり液体でもあることが流体力学で証明され、この研究はイグノーベル賞を受賞したわけだが、中には途中でひっかかってしまい、出られなくなることもある

 そこでまたしても猫好き研究者の登場だ。ハンガリーの猫好き博士が率いる研究チームは、猫の流動性、つまり体のサイズをどの程度理解しているのか確かめることにした。

 その結果、猫は高さに関しては完全に把握しているのだが、幅に関してはよくわかっていないことが明らかになったという。

は自分の体の大きさをどのくらい把握しているのか?

 動物の中には、自分の体の大きさをきちんと把握しているものがいる。

 例えば犬は、通路の幅を見て、通り抜けられるかどうか上手に判断する。また自分の体が邪魔になるかどうかも分かる。こうしたことは自分の体の大きさをある程度認識していなければできないことだ。

 では猫はどうなのか? 意外にも猫を対象にした同様の研究はこれまでになかった。その理由は明確だ。猫はそういった実験に協力してくれないからだ。

  犬の場合、エサがあれば喜んでいろいろなことに協力してくれる。ところが猫の場合、見知らぬ人間のお遊びに付き合ってくれるほどお人好しではない。実験室のような見知らぬ環境ではなおさらだ。

 そんなわけで、、ハンガリー、エトヴェシュ・ロランド大学のペーター・ポングラーツ博士率いる研究チームは、どうにかして猫の科学の発展に協力してくれる飼い主たちを探し、そのご家庭に実験器具を持ち込んで研究を行うことになった。

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猫に様々な幅や高さの穴に入ってもらう実験

 ポングラーツ博士が行った実験はこうだ。

 部屋のドアのところに、四角い穴が開けられた仕切りをおき、その一方に猫を待機させる。

 次にその反対側から飼い主に呼びかけてもらう。運よく猫が関心を示してくれれば、その穴を通過してくれるだろう。

 これを繰り返しながら、穴の高さや幅を少しずつ小さくしていき、いつまで猫がそこを通り抜けようとするのか観察する。

 賢い猫たちは、仕切りを飛び越えたり、単純に興味を示さなかったりと、一筋縄では行かない子たちもいた。

 それでも大半の猫たちは、穴を通り抜けようと試み、時に敗北を味わうこともあったようだ。

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は高さはよくわかっているが、幅には鈍感

 そうした猫の行動から明らかになった意外な事実は、猫は穴の高さには敏感だが、幅の狭さには無頓着だったことだ。

 そうした傾向は背の高い猫ほど強く、穴の高さが低かった場合、たとえ通過できるものだったとしても迂回しようとしていたという。

 つまり猫は自分の背の高さについてはある程度認識しており、幅が広くても低い穴の場合は、通過をためらうようになる。

 一方、体の幅は分かっていないようで、幅が狭い隙間を無謀にも通り抜けようと試みて、失敗してしまうこともある。

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動物はそれぞれの環境に適した自己認知能力を持っている

 猫の新たな一面を発見できるこうした実験は、猫好きにとって面白いものだが、動物の自己認知に興味のある人間にとっても意義深いものだ。

 ポングラーツ博士は、これまでの動物や子供を対象とした自己認知の研究は、自己認知ができるか、できないかだけで判断されてきたと指摘する。

 ところが最近の研究によって、話はそう単純ではなく、一口に自己認知と言ってもさまざまな要素で構成されていることが明らかになってきている。

 さらに自己認知は人間のものが最高で、ほかの動物のものはそれより劣るといった話でもない。

 動物はそれぞれがそれぞれの環境に適した自己認知を発達させてきたからだ。

 したがって自己認知とは何かを考えるには、そのような動物それぞれの生息環境や特性を踏まえたうえで、それに適した研究方法を考案しなければならない。

 猫の場合、彼らの祖先は狭い空間に入り込み、そこで獲物がやってくるのを待ち伏せした。だからそれに相応しい身体感覚を身につけ、ペットとなった猫はそれを受け継いでいる。

 それがなぜ縦方向に敏感で、幅に対しては無頓着なのか今のところ不明だが、それも彼らの祖先が野生で直面していた状況を反映しているに違いない。

 この研究は『iScience』(2024年9月17日付)に掲載された。

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