
大阪大学大学院の研究者によって、世界初となる「筋肉コンピューティング」が考案されたそうだ。
これは「物理リザバーコンピューティング」と呼ばれる機械学習アプローチに筋肉を利用したもので、人体の生体組織によって複雑な計算が可能であることを世界で初めて実証している。
人体さえあれば高度な計算処理が可能になるというこの仕組みは、将来的にはハードウェアのないウェアラブルシステムなどへの応用が期待されるという。
だが筋肉で計算するとは一体どういうことなのか? 以下では、”脳筋”という言葉がいずれ褒め言葉になるのではと予感させる筋肉コンピューティングについて説明しよう。
物理リザバーコンピューティングとは?
現在のコンピュータの限界を克服する試みとしてよく知られているのは、量子コンピューティングだが、それだけではない。その1つが、今回のテーマである「リザバーコンピューティング」だ。
リザバーコンピューティングとは、時間の流れを持つデータ(時系列データ)を扱うのが得意な機械学習の仕組みのこと。その最大の長所は、少量のデータできわめて高速な学習を行えるところだ。
一般にリザバーとは液体を入れるタンクや貯水池のことだが、ここでは情報を蓄積したタンクのようなものだと思えばいい。
たとえば、水を入れたタンクに石を投げ込んだとする。すると水面には波紋が広がるだろう。この波紋は、石の大きさや投げ込まれたスピード・角度といった、石そのものの情報を反映したものだ。
さらに石を投げ込み続ければ、それぞれの石の情報を反映した波紋が複雑なパターンを形成することだろう。
このとき、波紋は投げ込まれた石(入力)を時間的・空間的なパターンに変換したものとみなすことができる。
この波紋のリザバー(リザバー層や中間層という)はあくまで比喩だが、光学系・力学系・量子系をはじめとする物理系が実際に利用されることはあり、これを「物理リザバーコンピューティング」という。
筋肉で複雑な計算処理を行えることを証明
だが今回、大阪大学大学院基礎工学研究科の小林洋准教授らは、もっと身近にある意外なものをリザバー層に利用している。すなわち人体の筋肉である。
具体的には、手首を曲げ伸ばしし(手首の角度が入力となる)、そのときの筋肉をエコーで撮影。その画像から筋組織の”変形場”を取得し、これをリザバー層として利用する。
この筋肉のリザバー層から得られた出力で機械学習を行い、AIに入力から出力を予測させる。すると正しい予測値が得られたのである。
このことは人体の筋肉で複雑な計算を行えることを実証しているのだそうだ。
つまりは人間がいる場所なら、どこでも高度な計算を行える可能性があるということ。将来的には、ハードウェアのないウェアラブルシステムのような応用が考えられるそうだ。
この研究は、『IEEE Access[https://ieeexplore.ieee.org/document/10935315]』(2025年3月20日付)に掲載された。
References: Information Processing via Human Soft Tissue: Soft Tissue Reservoir Computing[https://ieeexplore.ieee.org/document/10935315] / 人の筋肉を使って複雑な計算ができる![https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20250327_4] / Entrance.es.osaka-u.ac.jp[https://www.entrance.es.osaka-u.ac.jp/features-news/2370/]
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