5億年前の奇妙な節足動物の100年にわたる謎を解明、脚があって脱皮をしていた
5億年前に生きた初期の節足動物ヘルメティアのイメージ/Credit: Marianne Collins

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 100年以上前に発見されながらも、これまで研究が進んでおらず正式な記載が行われていなかったカンブリア紀の節足動物「ヘルメティア・エクスパンサ」の謎が明らかになった。

 ハーバード大学を中心とする古生物学者チームによる新たな研究によると、三葉虫にも似たヘルメティア・エクスパンサ(Helmetia expansa)には、これまでないとされていた脚があり、しかも脱皮をすることまで明らかになっている。

発見されてから100年以上未記載だった謎の節足動物

 この謎めいた節足動物が、カナダ、ロッキー山脈のバージェス頁岩で初めて発見されたのは1917年のことだ。

 その翌年、発見者である古生物学者チャールズ・ウォルコットは、近くにあるヘルメット山にちなみ「ヘルメティア・エクスパンサ(Helmetia expansa)」と命名。当初は甲殻類であるとされた。

 だが現在では、より厳密に「コンシリテルガ類(Conciliterga)」と呼ばれるすでに絶滅した初期節足動物の仲間であるとされている。

 よく知られた三葉虫と近い関係にあるが、コンシリテルガ類には三葉虫のような石灰化した硬い外骨格がない。

 だから5億年前のバージェス頁岩のような特殊な条件がなければ、そう簡単には化石にならない。

 その結果、ヘルメティア・エクスパンサの標本は、ホロタイプ(種を定義する基準となる標本のこと)が1つあるだけで、なかなか研究が進まず、正式に記載されることもなかった。

 ハーバード大学のポスドク研究員サラ・ロッソ氏は、「形態や保存状態のバリエーションを把握するには、1つだけ標本を調べたのではダメなのです」と、ニュースリリース[https://www.oeb.harvard.edu/news/2025/04/ancient-fossil-sheds-big-light-evolution-mystery-solving-100-year-arthropod-mystery]で述べている。

 だがそれももう過去の話だ。今ではロイヤルオンタリオ博物館(カナダ)と国立自然史博物館(アメリカ)に36点の標本が所蔵されている。

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ヘルメティアには脚があった

 ロッソ氏らはこれらの標本を調べたうえで、さらに「澄江生物群」(中国)と「シリウス・パセット動物群」(グリーンランド)の類似種と比較。

 発見から108年にして、ついにヘルメティア・エクスパンサを正式に記載した。

 この調査で判明した驚きの事実は、ヘルメティアにも歩くための脚(あし)がきちんとあったことだ。

 一般に初期節足動物の脚には、移動やエサの捕獲に使う歩脚と、呼吸のためのエラがある。

だがヘルメティアのホロタイプではエラしか確認できないため、じつは脚がなく、水中を泳いで生きていたのではないかと疑われていた。

 しかし実際には幅の広いエラと歩脚があり、三葉虫のように歩行していた可能性が高いのだ。

ヘルメティアは脱皮をして大きくなった

 もう1つの驚きの発見は、彼らが脱皮することだ。調査対象となった標本の中に、ちょうど脱皮をしている真っ最中のものが2点見つかったのだ。

 ロッソ氏によれば、これはコンシリテルガ類が脱皮をすることを裏付ける初の証拠であるという。

コンシリテルガ類で脱皮が確認されたのは初めてです

どんな節足動物も成長のために硬い外骨格を脱ぎますが、それを観察するには脱皮中の標本を見つけねばならないので、これまで知られていませんでした

 脱皮するヘルメティアは、新しい外骨格が頭部の近くに見えていた。このことは彼らが前方から抜けていくだろうことを意味している。

 一般的なカニ類は体の後ろから抜けていくので、これとは逆でむしろカブトガニに近いという。

 また成体の大きさに、かなりのバラツキがあることも判明した。一番小さい標本が全長92mmなのに対し、最大のものは180mm以上あった。

 「こうしたパターンから、5億800万年前に生きた彼らが、どのように成長し、どれほど大きくなり得たかがわかります」

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2種類のヘルメティア

 こうした調査の結果、ヘルメティア科には2つのグループがあることが明らかになっている。

 1つは、節がはっきり分かれており、体の側面にトゲがある「ヘルメティア属」。ヘルメティア・エクスパンサはこちらの仲間だ。

 もう一方は「テゴペルテ属」。こちらは節がくっついており、トゲがないのが特徴だ。

 「今回の発見により、ヘルメティアの外観・生活様式・コンシリテルガ類の仲間の関係性がよりはっきりしました。コンシリテルガ類をはじめとする初期節足動物の今後の研究にとって、とても重要なことです」とロッソ氏は評価する。

 この研究は『Journal of Systematic Palaeontology[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14772019.2025.2468195]』(2025年4月4日付)に掲載された。

References: Helmetia expansa Walcott, 1918 revisited – new insights into the internal anatomy, moulting and phylogeny of Conciliterga[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14772019.2025.2468195] / Ancient fossil sheds big light on evolution mystery: solving a 100-year arthropod mystery[https://www.oeb.harvard.edu/news/2025/04/ancient-fossil-sheds-big-light-evolution-mystery-solving-100-year-arthropod-mystery]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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