永久凍土から発見された1万4000年前の子犬、実は絶滅したオオカミだった
永久凍土で発見された2匹の遺体 image credit:Mietje Germonpré Royal Belgian Institute of Natural Sciences

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 2011年と2015年、シベリア北部の永久凍土から、保存状態の極めて良い2匹の子犬の遺体が相次いで発見された。

 これらの個体は約14,000年前に生きていたと推測され、黒い毛色や人間の痕跡が近くにあったことから、「史上最古の飼い犬ではないか」と注目を集めた。

 ところが、最新のDNA解析により、実際には、現代の犬とは無関係な絶滅オオカミの兄妹であることが判明した。

 さらに、冷凍されたままの体には、当時の生態系や食生活を示す驚くべき痕跡も残されていた。

 この研究は『Quaternary Research[https://doi.org/10.1017/qua.2025.10]』誌(2025年6月12日付)に掲載された。

シベリアの永久凍土で発見された2体の子犬

 シベリア北部のトゥマット村から約40km離れた場所にあるシャラフ地域で2011年、1体の子犬と思われる遺体が発見された。さらに2015年、同地域で2体目が発見された。

 どちらも凍った状態で保存状態は完璧だった。皮膚、毛皮、歯、内臓、さらには胃の内容物までが完全に残っていた。

 死後すぐ、地滑りによって巣穴ごと凍土に埋まり、酸素も微生物も遮断されたことが、自然冷凍ミイラという珍しい状態を生んだと考えられている。

黒毛だったことから最古の飼い犬と想定される 

 この2体の子犬は、発見当初「最古の飼い犬かもしれない」と注目された。

 理由はその黒い毛色にあった。黒毛は、これまで犬に特有の遺伝子変異によって生じると考えられており、家畜化の証拠の一つとされていた。

 さらに、発見地点の近くでは、人間の手で切断され焼かれたマンモスの骨も見つかっていたことから、初期の人間と共生していた可能性も取り沙汰された。

最新のDNA解析でオオカミであることが判明

 だが、最近行われたイギリスのヨーク大学を中心とする国際研究チームが行ったDNA解析により、これらの個体が現存するイヌの系統とは異なる、絶滅したオオカミの姉妹であることが判明した。

 2匹は同じ母親から生まれ、生後7~9週で死亡したとみられる。

 研究チームのアン・カトリーネ・ルンゲ博士は、「黒毛が家畜化の証という仮説は見直される必要がある」と述べ、犬の進化の過程にさらなる謎が加わったと指摘している。

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胃の中から発見されたケナガサイの痕跡

 さらに2匹の胃の中からは植物のほか、ケブカサイの筋繊維が検出された。

 ケブカサイは氷河期の北ユーラシアに広く生息していた、絶滅した大型草食獣で、やはり永久凍土から保存状態の良い遺体が発見されている。

 これが意味するのは、オオカミの子が巨大な獲物の肉を食べていたという事実である。

 たとえ親が狩ってきた肉を与えられたとしても、その相手が巨大なケブカサイであるというのは興味深い。

 ケブカサイは当時のシベリアでマンモスに次いで2番目に大きな草食動物で、体の長さは約4m、体重は3~4トンに達したといわれる。

 ヨーク大学のナサン・ウェールズ博士は、「このオオカミたちは現代の個体よりも体格が大きかった可能性もあるが、群れでの狩猟や育児の分担など、現在のオオカミと共通する行動パターンを持っていたのかもしれない」と述べている。

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犬の起源をめぐる新たな手がかり

 今回の研究により、この2体が、長らく探し求められてきた「最古の飼い犬」でないことが判明した。

 だが、黒毛のオオカミの存在や、氷河期に生きた肉食動物の食性、生態環境を直接示す貴重な手がかりをもたらした。

 人類がいつ、どのようにしてオオカミを犬へと家畜化したのか。その過程はいまだ多くの謎に包まれている。

 1万年以上も前の永久凍土から現れた小さなオオカミの姉妹が、その問いに答えてくれる時がくるかもしれない。

References: Famous Ice Age ‘puppies’ likely wolf cubs and not dogs, study shows[https://www.eurekalert.org/news-releases/1086950] / Multifaceted analysis reveals diet and kinship of Late Pleistocene ‘Tumat Puppies’[https://doi.org/10.1017/qua.2025.10]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

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