世界初、水上のデジタル酪農施設で牛の飼育が開始される、気候変動に左右されない環境(オランダ)

Thorsten Blank from Pixabay
 ヨーロッパ最大の港。オランダ・ロッテルダム港のおなじみの光景と言えば、水上に浮かぶクレーン、コンテナ、荷船と周辺を飛び回るカモメたちだが、そこで強烈にインパクトを放った存在がお目見えした。
海の上にいる35頭の牛である。

 ミューズ・ライン・イッセル種のこれらの乳牛は、陸地の農場を脅かす気候変動の影響から逃れるため、世界初の水の上につくった持続可能な都市型デジタル農場で飼育されているのだ。
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World's first floating farm makes a splash in Rotterdam harbor

【温暖化と人口増加の時代。いかに食料を確保するのか?】

 「温暖化の影響で世界は狭くなりつつあります」と世界初の水上酪農場「フローティング・ファーム」のピーター・ファン・ウィンゲルデンCEOは話す。

 「港にいるとき、海上に農場を作るというアイデアを閃きました。これなら、人口が増加し続ける都市で暮らす消費者のすぐ近くから、健康的な食品をお届けできます。」

 国連の推定によると、現在77億人の世界人口は2050年までに97億人に増加し、そのうち68パーセントの人々が都市部で暮らすようになるという。


 もともと国土が狭い国や、温暖化の影響で少しずつ狭まりつつある地域でなら、水の上を持続可能な都市型農場として使ってしまおうというアイデアは至極真っ当なものだ。

 このような変化をフローティング・ファームは「トランスファーメーション」と呼んでいる。陸上から水上へと酪農の形態を変えることで、都市の自給自足を可能にし、食料輸入への依存を減らすことができる。

 これは気候変動によって天候が過激さを増し、輸入の脆弱性が高まっている現状ではとても大切なことだ。

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【海面上昇にも楽々対応できる3層構造の水上施設】

 フローティング・ファームの施設は気候変動への適応が考慮されており、海上を移動することができる。どれだけ雨が降ろうが、海の水位が上昇しようがまったく問題ない。


 3層構造となっており、下部フロアは海面よりも下にある。牛たちは上部フロアの上で暮らしているが、すぐ隣にある海岸の牧場へふらっと移動することもできる。

 エサは地元の草原やゴルフ場で刈り取られてきた草やジャガイモの皮だが、ビール醸造所から提供される搾かすなども牛の大好物だという。

 食べたら出るのがフンだが、それは肥やしにされ、公園や運動場などに使われる。強豪サッカークラブ、フェイエノールトのグラウンドにもこの肥やしが使われているそうだ。

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【ロボットで完全自動管理のデジタル農場】

 海の上ということを除けば、よくある長閑な牧場のような雰囲気だが、その管理にはすごいハイテクが採用されている。
搾乳・エサやり・掃除を担う3種のロボットが牛たちの面倒を見ているのだ。

 そのための電力は海上に浮かべられたソーラーパネルで半分まで賄うことができる。

 「全プロセスは完全に自動化されています」とウィンゲルデンCEO。人間はたった2人しか雇われておらず、より少ない人数で最高の出来高を上げるよう取り組んでいるのだとか。

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【自前の施設で牛乳を処理・加工】

 フローティング・ファームの中部フロアは牛乳の処理施設になっている。そこでは日々牛が分けてくれる搾りたての牛乳700リットルを低温殺菌したり、ヨーグルトに加工したりしている。


 こうして作られた牛乳や乳製品には、ロッテルダムで作られたことを証明する「メイド・イン・101」のラベルが貼られて売られる。

 生産コストは加工業者への販売価格を上回ってしまうという。しかしフローティング・ファームではその加工プロセスを自前の施設で行っているので、採算は取れるとのことだ。

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【世界中の都市からの関心】

 このユニークな水上施設がオープンしたのは5月のことだが、ニューヨークや上海といった世界中の都市が関心を示しているという。

 またすでに水上農場があるバングラデシュや、国土が狭く周囲を海に囲まれているシンガポールなどでも、うまくいくはずだとウィンゲルデンCEOは語る。

 「私たちは人口が増加する世界に食料を提供しなければなりません。
ですが、それは田舎ではダメなのです。田舎暮らしはそれはそれでいいですが、技術基盤に応じて違うやり方で食料生産をしなければ。」

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【水上施設に対する賛否両論の意見】

 しかし、こうした取り組みにも批判的な声がある。牛は伝統的な牧場のような広い空間を必要としているのに、最近の農場でよくあるように完全に屋内飼育されているというのだ。

 また都市の近くで生産するのはいいにしても、わざわざ海上で酪農をしなくても、もっと簡単な方法があるという意見もある。

 一方で、未来学者のゲルト・レオンハルト氏は、未来の農業は古き良き伝統的農業に、垂直農法(高層ビルなどを利用する農業)、AI、ロボット、培養食品を組み合わせたものになるだろうと予測する。

 「どうやって100億人もの人たちを食べさせていくのでしょう? デジタル農業が解決策なのは明らかです」とレオンハルト氏は話す。


 水上で牛を飼育するのは、確かに現段階では高コストかもしれない。それでも、数年前は高額だったものが、新しい常識になるのは普通にあることだ。

 なおウィンゲルデンCEOが次に目指すのは、水上の鶏卵場で、それが実現すれば今度は水上での野菜作りだそうだ。彼の目には、あらゆる食料生産を水上で行うビジョンが映っているに違いない。

References:euronews / dairyherdなど/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:世界初、水上のデジタル酪農施設で牛の飼育が開始される、気候変動に左右されない環境(オランダ) http://karapaia.com/archives/52285731.html