古代エジプト時代の猫・鳥・へびのミイラ。その内部が高解像度のマイクロCTスキャンで明らかに(英研究)

マイクロCTスキャンで見た古代エジプト猫ミイラの内部 image by:University of Swansea
 古代エジプト人は、人間と同じように動物の死体もミイラにして、神への捧げものとした。こうした大古のミイラの多くは現存しているが、脆くて壊れやすく、詳しく調べるのはなかなか難しい。


 そこで、異なる分野の専門家たちが集結して、2000年前に作られた、猫、鳥、ヘビのミイラの内部を、医療用CTスキャンの100倍の解像度をもつ、マイクロCTスキャンを使用し、非破壊な方法で調べることに成功した。
【2000年以上前の猫、鳥、ヘビのミイラをマイクロCTで観察】

 イギリス、スウォンジー大学の研究者は、まとまったミイラ標本を所蔵していて、その中から大きさも姿形も違う猫、鳥、ヘビの3種を選び出した。

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蛇・猫・鳥のミイラ image by:University of Swansea
 スキャンの結果、猫の頭部は、色のついた埋葬用マスクで飾られていて、ミイラにしてから胴体とは別にラッピングされたようだ。

 鳥のミイラは、包帯の底から折れた足が飛び出していた以外は目立った損傷はなかった。ヘビの場合は、2009年にX線にかけるまではヘビだとはっきりわからなかったが、中でとぐろを巻いたままミイラになっていることが判明した。

 マイクロCTのおかげで、小さな骨や歯、乾燥しきった組織など、遺骸の極めて細かい部分の画像まで作成することができた。


猫のミイラのマイクロCTスキャン映像
[動画を見る]SI S1 AB77a Drishti movie3
 例えば猫の場合、顎の骨の中にまだ生えていない歯があったことから、生まれて5ヶ月ほどの子猫だったことがわかった。

 体には、つながっていない遠位骨端が見られ、若い個体だったことがここからも証明された。首の骨が折れていることもわかったが、ミイラにする際、首を絞められたのか、処理の途中で折れたものなのかは不明である。

鳥のミイラ
[動画を見る]SI S6 W531 spiral rotate2 May2020
 鳥のミイラは、バーチャルでの骨の大きさから、ハヤブサの仲間であることがわかった。首の骨は折れておらず、損傷は見られない。

ヘビのミイラ
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SI S9 Mummy Snake Head1 Converted

 ヘビは、若いエジプトコブラだった。
石灰化や凝結など腎臓のダメージが見られ、おそらく水分不足のせいであまり状態がよくなかったと思われる。

 骨折の跡が複数あり、尾をつかまれて強く打ちつけられたことによって死んだのではないかと考えられる。

 人間がヘビに噛まれないようにするためか、ヘビの開いた口の中に樹脂(おそらくナトロン=塩)が詰められていた。

 だがこれは、ミイラ化処置の一部かもしれないとする研究者もいる。

ヘビの顎が大きく開いていた事実が、ミイラ化のための処置だったという説の裏づけになりえます。口の中になんらかの介在物がなければ、死んだときにこのような状態になることはありません。


それに、顎の骨と歯にはっきりした傷が見られました。これは人間のミイラの場合にも見られますが、口を開けさせてミイラ化処置が行われた証拠なのです

 もしそうなら、ヘビにも同じようなミイラ化の処置が行われた初めての証拠といえる。

 歴史書にアピスの雄牛にも同様の処置がされたことがほのめかされているが、ミルラ(没薬)やナトロンを舌下に入れて、腐敗を送らせるためだったようだ。

 この発見は、古代エジプトにおける動物のミイラ化、信仰、人間と動物の関係ついての新たな洞察をわたしたちにもたらしてくれることになるだろう。

【最先端技術を駆使してミイラ研究】

 年月がたって壊れやすくなっている古代遺物を最先端技術を使って調べる。これは、考古学分析をするのに大いに役立つ。


 現在、ミイラ研究にも先進画像技術を使うのは一般的になっている。1800年代にさかのぼる初期のやり方は、当然のことながら、ミイラの包帯をほどいて、直に骨や一緒に包まれている遺物を調べていた。

 この方法だと、ラッピング技術やミイラ化のプロセスはよくわかっても、ミイラを壊してしまうことも多かった。

 現在は、こうした損壊を避けるために、偏光顕微鏡法、単純X線撮影や、医療X線コンピューター断層撮影(CT)などの非侵襲性技術がおもに用いられている。

 医療用CTは、容積測定という点で2次元X線撮影より優れているが、解像度は低い。マイクロCTなら、高解像度の3次元画像を作成できる。
複数のX線写真を組み合わせて、3次元ボリューム画像を作ることもでき、これを3Dプリントしたり、仮想現実設定で分析したりできる。

 こうした技術は、極小の物質の内部構造を画像化するのに使われている。これまでも、マイクロCTはハヤブサのミイラの画像化に使われ、最後に食べたものを特定したり、また、切断された人間の手の画像を作成したりしたことがある。

「マイクロCTを使えば、死後2000年以上たっている古代エジプトの動物たちの検死を効率的に行うことができます」スウォンジー大学の共同研究者リチャード・ジョンストンは言う。

「医療用CTの解像度を100倍まで上げれば、動物たちがどのような状態でミイラ化され、死因はなんだったのか、新たな証拠をまとめ、その全貌を知ることができます。この研究によって、現在のハイテクツールが、いかに遠い過去に光を当てることができるかがわかります」

この研究は『Scientific Reports』(8月20日)に掲載された。

Evidence of diet, deification, and death within ancient Egyptian mummified animals
https://www.nature.com/articles/s41598-020-69726-0
References:arstechnica/ written by konohazuku / edited by parumo

記事全文はこちら:古代エジプト時代の猫・鳥・へびのミイラ。その内部が高解像度のマイクロCTスキャンで明らかに(英研究) http://karapaia.com/archives/52294026.html