
超強力なシャコパンチの秘密 /iStock
寿司ネタとして知られているシャコだがそれだけではない。「シャコパンチ」と呼ばれる超強烈なパンチ力を持つことでも有名だ。
古代から生きているこの甲殻類は、ハンマーなようなふたつの拳で獲物を殴打して仕留める。そのパンチスピードは水中にもかかわらず、時速80キロ以上にもなり、プロボクサーよりも速い。
そんな勢いでパンチを繰り出したら、自分の拳は傷つかないのだろうか。
アメリカの研究者たちは、シャコの外肢(がいし)の弾力性について研究を行った。そしてその秘密が明らかとなった。
【シャコは自家製ボクサーグローブを装着しているようなもの】
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の研究者たちは、彼らの拳にはナノ粒子がコーティングされていて、それが衝撃を吸収、分散させていることを発見した。
いわば、自家製ボクサーグローブを備えているようなものなのだ。この仕組みは、自動車、航空宇宙、スポーツ業界などの新素材開発への応用が期待できるかもしれない。
考えてみてください。ものすごいスピードで壁をパンチしても、自分の拳は傷つかないのです。これはすごいことですよ。この技術をなんとか応用できないか、思わず考えてしまいます
シャコの研究を10年以上続けている、UCIのデヴィッド・キサイラス教授はワクワクしながらそう語る。
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Mantis Shrimp Packs a Punch | Predator in Paradise
【ナノ粒子でコーティングされたシャコの拳】
研究者らは、透過型電子顕微鏡(TEM)と原子間力顕微鏡(AFM)を使って、ナノスケールレベルでシャコの拳の構造と材質を調べてみた。
すると、タンパク質と多糖類でできた柔らかい有機物と、リン酸カルシウムでできた硬い無機物が特殊な構造で結びついた、ナノ結晶粒子で覆われていることがわかった。
3次元無機物ナノ結晶は、レゴのピースのように積み重ねられた構造になっているが、ひとつひとつはわずかに向きがずれて結合されている。
このような結晶の界面は、高速で衝撃を与えられると壊れてクッションのようになり、侵入の深さを半減させるため、表面層の復元力つまり弾力性にとって重要な要素となっている。
キサイラス教授は言う。
歪み速度が比較的低い場合、粒子はまるでマシュマロのように変形し、衝撃が緩むとすぐに元に戻るのです。
また、高エネルギーの衝撃の場合は、ナノ結晶界面の粒子が強張って壊れ、強いエネルギーを分散させます。衝撃を与えてなにかを壊すと、新たな表面が開いてかなりの量のエネルギーが発散されるのです
パデュー大学の研究者やオックスフォードの機器メーカーを含む研究チームは、このすばらしい衝撃吸収能力を測定し、その特徴を調べた。
硬い無機物と柔らかい有機物が互いに絶妙に浸透しあっているため、ナノ粒子コーティングの剛性を損なうことなく、優れた衝撃吸収性が得られるのです。
これは、ほかの金属や工業用セラミックよりも優れている珍しい構造といえます
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World's Fastest Punch | Slow Motion Mantis Shrimp | Earth Unplugged
現在、研究チームは、この発見をさまざま分野で応用することを考えている。
似たような分子をうまいこと操作して、自動車、航空機、フットボールのヘルメット、防弾チョッキなど、表面の保護強化の技術に応用することができたら、人間の防御力はさらにアップすることだろう。
この発見は『Nature Materials』誌に発表された。
UCI materials scientists study a sea creature that packs a powerful punch | EurekAlert! Science NewsReferences:phys/ written by konohazuku / edited by parumo
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-08/uoc--um081420.php
記事全文はこちら:脅威の破壊力を持つシャコパンチを繰り出すシャコの秘密に迫る http://karapaia.com/archives/52294111.html
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