リチウム電池の10倍の密度で水素を蓄えられる歯磨き粉のようなパワーペーストが開発される

Fraunhofer
 まるで灰色の絵具か歯磨き粉のように見えるが、これにはリチウムイオン充電池の10倍のエネルギー密度で水素を蓄えることができる。

 圧力容器も不要で、これがあれば取り扱いの難しい水素の問題点を克服し、ガソリン車よりも遠くへ走り、手軽に補給できる、実用的な燃料電池車を実現できるそうだ。

【水素を使った次世代エネルギーの問題点】

 水素を使った燃料電池は、排出されるのが水だけというクリーンな次世代エネルギーとして期待されている。しかし克服すべき欠点がないわけではない。

 たとえば燃料電池車のタンクには、水素を700バールで加圧して注入する。そのためにタンクは重く大きくなってしまい、エネルギー密度が高いというせっかくの水素のメリットが相殺されてしまう。

 またこのせいで、バイクのような小さな乗り物にとっては、あまり現実的な選択肢ではない。

【水素化マグネシウムをペースト状に】

 そこでドイツ、フラウンホーファー(Fraunhofer)生産技術・応用マテリアル研究所(IFAM)が考案したのが、この「パワーペースト」だ。「水素化マグネシウム」をベースにしたペーストで、化学形態の水素を大気圧で蓄えることができる。

 ニュースリリースによれば、パワーペーストを作るには、大気圧の5、6倍の圧力と350度の熱をくわえつつ、マグネシウムと水素を混ぜ合わせて水素化マグネシウムを作る。

 さらに「エステル」と「金属塩」を添加すれば、粘り気のある灰色の絵具のようなペーストが完成。あとはこれをカートリッジに充填すればいい。

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【リチウム電池のエネルギー密度の10倍】

 パワーペーストは最大250度までは完全に安定しており、同じ重さのリチウム電池の10倍のエネルギーを保存できる。また700バールに加圧した同重量の水素タンクにくらべても大幅アップとなる。


 これを使えば、ガソリン車に匹敵するどころか、それ以上の走行距離も期待できるという。

 貯蔵されたエネルギーを使うには、プランジャー機構でカートリッジ内のペーストを反応チャンバーに押し出す。ここで水と反応させれば、抽出割合をコントロールしながら水素を取り出すことができる。

 あとは水素を燃料電池に送り、通常の「電気分解」の原理を応用して発電する。

 なお、パワーペーストから水素を取り出すときに得られる水素の半分は、反応に使われた水に由来する。じつはこれが優れたエネルギー密度を実現できる秘密の1つなのだそうだ。

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試作されたパワーペースト用の発電機。カートリッジを挿入し、100ワット固体高分子形燃料電池で発電する
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【カートリッジを交換するだけ! 補給も楽々】

 補給だって簡単だ。水素ステーションのようなしかるべき場所に行って、車体からカートリッジを抜き取り、新しいものに交換するだけでいい。

 スクーターのような乗り物なら、カートリッジはバーベキュー用のガス缶くらいで、楽々交換できるという。大型ドローンなら、飛行時間・距離・デバイスなどの用途に応じて搭載するカートリッジの数を調整するといった、柔軟な運用も可能だ。

 あるいは従来のやり方のようにパワーペーストをタンクに直接注入することだってできる。
比較的安価な設備で、今までのやり方で補給できるようになるそうだ。

【ペーストなので輸送も安全】

 水素ステーションへの輸送がぐっとシンプルになることもメリットだ。ガソリンのようにタンクローリーで輸送できるので、水素を気体のまま運ぶよりもずっと安全だ。

 今現在、フラウンホーファーIFAMは、試運転用のパワーペースト生産設備を建設中で、完成すれば年間4トンの生産ができるようになるとのこと。完成は年内だそうだ。

References:Powerpaste packs clean hydrogen energy in a safe, convenient gray goop/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:リチウム電池の10倍の密度で水素を蓄えられる歯磨き粉のようなパワーペーストが開発される https://karapaia.com/archives/52299055.html
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