糞便移植(便微生物移植)が、皮膚がんの治療に有効であるとする研究結果


 人間の腸内には100兆もの腸内細菌が潜んでいると言われている。これはヒトの体の細胞とほぼ同じ数で、食べ物から栄養を取り出したり、免疫反応をアップさせたりと絶妙なバランスを保ちながら共生関係を保っている。


 ひとたびこのバランスが崩れると、様々な病気を発症することが近年の研究で明らかになっている。そこで注目されているのが、糞便移植(便微生物移植)だ。

 すでに欧米諸国では通常医療として行われているこの治療法は、健康な人の便に含まれている腸内細菌を患者に移植することで、腸内環境を整備するというものだ。潰瘍性大腸炎や自閉症スペクトラム障害アルコール依存症などに効果があったという報告もある。

 そしてそれはどうやら、がんにも効果があるかもしれないという。『Science』(2月5日付)に掲載された最新の研究では、ほとんどの治療で効果が見られなかった皮膚がんの患者に糞便移植を行ったところ、腫瘍が小さくなったそうだ。

【黒色腫(皮膚がん)治療の難しさ】

 進行した黒色腫(皮膚がんの一種)には、免疫細胞の表面にあるタンパク質(たとえばPD-1)を標的とする「免疫チェックポイント阻害剤」がよく行われている。

 がん細胞はPD-1受容体を隠れ蓑にして、免疫から逃れるという巧妙な仕組みを持っている。免疫チェックポイント阻害剤である「ペンブロリズマブ」は、そうした受容体に結合して、免疫の再活性をうながす薬だ。

 だが50~70%の患者は結局、治療の甲斐なく病状が悪化してしまう。そして、もしこの免疫療法が効かなければ完全にお手上げとなる。現時点で認可されている治療法の中に、それ以上のものがないからだ。


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【治療効果のあった患者の大便から腸内細菌を集めて移植】

 そこで米ピッツバーグ大学をはじめとするグループは、ペンブロリズマブの効果をアップさせる腸内細菌がないか調べてみることにした。

 この治療がよく効いた患者の大便から腸内細菌を集めて、それをあまり効かなかった患者に移植するのだ。

 免疫療法の効果を左右する細菌をピンポイントで見つけ出すことは難しいために、大便に含まれていた腸内細菌を丸ごと移植。それから12週間後、治療効果に変化があったかどうかが評価された。

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image credit:Diwakar Davar / CC BY-ND
【糞便移植による効果を確認】

 その結果、患者15名中6名は、腫瘍が小さくなっていたか、少なくとも大きくはなっていないことが分かったという。中には疲労のような副作用が出た患者もいたが、それも許容範囲だったとのことだ。


 またその6名の腸内細菌は、最初に腸内細菌が調べられたときよりも、数が増えていたそうだ。

 さらに血液と腫瘍を分析したところ、「骨髄細胞」という免疫を弱らせる細胞や薬の効きにくさに関係する免疫系分子が減っており、その一方で免疫の獲得に大切な役割を果たしている「免疫記憶細胞」が増えていることも分かった。

 こうした結果は、一部の腸内細菌が薬への反応を高め、免疫系が腫瘍をうまく殺せるよう手助けしてくれることを示しているそうだ。

References:Science / sciencedaily/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:糞便移植(便微生物移植)が、皮膚がんの治療に有効であるとする研究結果 https://karapaia.com/archives/52299149.html