ナルシストには2つのタイプがある。尊大型と軟弱型


 自己愛が強く、自分が他人よりも優れた存在だと信じて疑わないナルシシズム(自己愛)を持つ人は、ナルシストと呼ばれている。

 その語源は、ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスが水面に映る自らの姿に恋をしたというエピソードに由来しているが、自分を誰よりも愛するその心の裏側には、大きな不安が隠されている場合もあるようだ。


 『Personality and Social Psychology Bulletin』(6月11日付)に掲載された研究によれば、ナルシストには2つのタイプがあり、自信たっぷりな「尊大型」と不安を抱えて生きる「軟弱型」のに分かれるという。

 どちらも周囲からの尊敬や羨望を求めてやまないが、不安定型は高い評価が得られず、精神的に脆弱になっているいることが多いそうだ。

ナルシシズム(自己愛)の強いナルシストの特徴 ナルシシズム(自己愛)という語はフロイトの心理学において初めて使われた。この言葉の由来はギリシア神話に登場するナルキッソスである。

 ナルキッソスはギリシアの美しい青年で、エーコーという森の妖精の求愛を拒んだ罰として、泉に映った自分の姿に恋するという呪いを受けた。

 彼はどうしても想いを遂げることができないので、やつれ果て水面に写った自分に接吻をしようとして、泉に落下して溺死し、彼が死んだ泉にはスイセンの花が咲いたと伝えられている。


 日本では、うぬぼれが強く、自分を過大評価する人のことを総じてナルシストと呼ぶが、海外の心理学では、行き過ぎたナルシシズム(自己愛)を持つナルシストは、自己愛性パーソナリティ障害の1つと捉えられている。

 自己愛性パーソナリティ障害の主な特徴は、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在であると思い込み、他人への関心が乏しいことなどだ。

 自己中心になりがちなので断定的で人の意見をはねのける。そうした特性はときにトラブルを引き起こす。

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カラヴァッジオによって描かれたナルキッソス / image credit:public domain/wikimediaナルシストには2つのタイプが存在する、尊大型と軟弱型 英エセックス大学とカナダ、ウォータールー大学の研究グループによると、そんな彼らにも2種類がいるのだという。「尊大型ナルシスト(Grandiose narcissist)」と「軟弱型ナルシスト(Vulnerable narcissist)」だ。


 どちらも利己的で、己が特別な存在であるとかたく信じており、他人と対立するような振る舞いをする点では共通している。

 しかし尊大型は外交的で、自尊心が高く自信たっぷりに人生を生きている。

 一方、軟弱型は、引っ込み思案で神経質かつ不安定だ。自尊心が低く常に不安を抱えている。

 また尊大型は有能で魅力的であることが多い。「俺か、俺以外か」と明言を残したローランドは尊大型かもしれない。
目標があれば、できるだけ大きな成功を手にしようと邁進する。

 一方、軟弱型はそれほど社会的スキルに長けていない傾向にある。内気で、成功よりも、むしろできるだけ失敗しないことの方が大切だ。

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尊大型と軟弱型の違い 今回の研究を行ったクリスチャン・ジョーダン氏らは、2種類のナルシストが他人から尊敬や羨望を示す「社会的地位」と他人から好かれ、受け入れられていることを示す「社会的包摂」について、どのように感じているのか調査している。

 たとえば、あるやり手の経営者がいたとしよう。一代で会社を大きく育てたこの人物は周囲から畏敬の念で見られている。
そのため社会的地位はある。だが、他人に厳しすぎるあまり好かれていなければ、社会的包摂は手に入れていないことになる。

 研究ではまず676人のアメリカ人を集め、彼らが尊大型と軟弱型のどちらにより当てはまるのかを評価した。

 その上で、社会的地位と社会的包摂を欲しいと思うか、また現時点でそれを手に入れられたと思うかどうか質問。その回答を彼らのタイプとあわせて分析した。

 その結果、尊大型も軟弱型も社会的地位を強く求めていることが明らかになったという。


 違ったのは、尊大型ナルシストがそれを手に入れたと感じているのに対して、軟弱型ナルシストは自分に相応しい地位を手に入れていないと感じていることだった。

 また尊大型は社会的包摂を手に入れたとは感じていないが、それほど欲しいとも思っていないことも明らかになったという。

 一方、軟弱型もまたそれを手に入れたとは感じていないことが多いが、尊大型と違って強く求めていた。

 そのため尊大型ナルシストは社会的な目標を達成したと感じているのに対して、脆弱型ナルシストはそう感じていないのだった。

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求めるものが手に入らないと感じている軟弱型ナルシスト 同じナルシストと呼ばれながら、欲しいものを手に入れて、自尊心を満足させるスポットライトを浴びている尊大型ナルシストと、思い通りにならず、不安と共に生きる軟弱型ナルシスト。

 求めるものを手に入れることができずに命を落とした悲劇のナルキッソスに近いのは、後者かもしれない。


 神話の美少年に境遇が似ているという事実は、彼らの自尊心を少しは満たしてくれるのだろうか?

References:Desperately Seeking Status: How Desires for, and Perceived Attainment of, Status and Inclusion Relate to Grandiose and Vulnerable Narcissism - Nikhila Mahadevan, Christian Jordan, 2021 / There are 2 types of narcissists. Here's what makes each tick. | Live Science / written by hiroching / edited by parumo

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