地球の水の起源は、かつて地中奥深くに存在した化合物である可能性
 地球の命を育んだ水はどこから生み出されたものなのか?それは今もなお大きな謎に包まれている。

 前回、地球の水は、地球が生まれる以前、太陽系に流入した星間物質がもたらしたという説を紹介した。
つまり水は、彗星が空から運んできたものであるということだ。だが、空ではなく地下から運ばれてきたという説も浮上している。

 『Physical Review Letters』(2022年1月21日付)に掲載された論文によれば、地球の水の起源は、かつて地中奥深くに存在した「ケイ酸マグネシウム」である可能性があるという。

 この化合物の内部に保存された水の素は、地球のコアが形成されるにつれて地表へと放出された。こうして誕生したのが、今日も存在する海だと考えられるそうだ。

地球の水は地下深くから生み出された説 地球の水の起源については、彗星によって運ばれてきたという仮説がある。


 しかし地球の水と彗星の水とでは、そこに含まれる同位体の比率が大きく異なっている。そのため彗星によって水が運ばれてきたのだとしても、それはごく少量であると考えられる。

 ならば、また別の起源があるはずだ。それを探るために、南開大学(中国)の研究グループは地下に注目した。

 もしかしたら太古の地球の地下に水が閉じ込められており、それが現在の海を作り出したのかもしれないというのだ。

 だがまだ若い地球の内部は、凄まじい熱と圧力が加わる極限の環境だった。
そんなところで本当に水が保存されることなどあるのだろうか?

 それを知るために使われたのが、「USPEX(Universal Structure Predictor: Evolutionary Xtallography)」というプログラムだ。USPEXは、さまざまな条件を満たす結晶構造を予測することができる。

 もしも地球内部の極限環境であっても安定して存在し、しかも水を保存できる物質があれば、それが地球の水の起源である可能性がある。

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image credit:SIMONE MARCHI / SWRI

海の起源はケイ酸マグネシウム そして弾き出された答えが「ケイ酸マグネシウム」だ。

 この化合物は、2個のマグネシウム元素、1個のケイ素元素、5個の酸素元素、2個の水素元素で構成されている。酸素と水素は「水」を構成する元素でもある。


 今回の研究によれば、まだコアが形成されていない地球最初の3000万年の間、地球内部には大量の水を抱えたケイ酸マグネシウムが存在したに違いないのだという。

 ケイ酸マグネシウムは、地球のコアが形成されるのと一緒に分解されたと考えられている。このときに酸素と水素が放出された。それは水となって1億年かけて地表に染み出し、現在も存在する生命を育む海になったというのだ。

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Photo by Alexis Antoine on Unsplash
同じプロセスで地球外生命が誕生? これは地球外生命についても重要なことを示唆している。それは、同じようなことが地球以外の惑星でも起きる可能性があるということだ。


 火星のような地球より小さな惑星は、内部の圧力が小さいためにケイ酸マグネシウムが形成されることはない。そのため、もしそこに水があるとすれば、こうしたプロセスとはまた違った起源があるはずだ。

 しかしスーパーアースのような地球よりも大きな惑星ならば、内部の圧力が十分高いため、水を保存できる化合物が形成されたとしてもおかしくはない。このことはとても重要な意味を持つ。

 これまでの研究では、ある惑星にその重量の0.2パーセント以上の水が含まれていたら、地表が水浸しになるだろうことが示されてきた。これは気候を不安定にし、生命の誕生にとっては不利な条件となる。


 しかしケイ酸マグネシウムがあれば、大量の水を惑星内部に隠して、地表が水浸しになることを防いでくれる。このような状況なら、たとえ水が豊富にあったとしても生命を維持することができる。

 それはつまり、ある惑星で生命が誕生する条件が、これまで考えられてきた以上に緩いということだ。

 海は生命の故郷だと言われている。だがある意味で、地球の生命の本当の故郷は地中と言えるのではなかろうか。この青い惑星に豊富に存在する水は、すでに消え去った地下の化合物の置き土産なのかもしれない。


References:An ‘Extinct’ Crystal May Help Explain the Origin of Earth’s Oceans / written by hiroching / edited by parumo

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