宇宙学者が語る、ネットで見つけた宇宙に関する偽情報
 ノースカロライナ州立大学に所属する理論宇宙学者のケイティ・マック氏は、科学について語るため、10年前に「@AstroKatie」というユーザー名でTwitterをはじめた。以来、楽しくてためになる投稿で50万人ものフォロワーを獲得してきた。

 彼女によると、残念なことに宇宙についての嘘や誤解を広めているアカウントがたくさんあるのだという。フェイク画像からタチの悪い陰謀論まで、ネットではありとあらゆるものを目にすることができる。

 先週、学術誌Scienceを出版しているAAASの年次総会で、マック氏は宇宙と物理学の虚偽情報が、どれほど科学の信頼を貶めかねないかについて論じた。

 マック氏は『Science』誌で、ネットで見かけた偽情報や画像に関するインタビューに答えている。

ネットでよく見る宇宙と物理学の嘘 「宇宙には巨大な空洞がある、これがその写真だ、宇宙に黒い汚れのようなものがある」というタイプのツイートを見かけます。  ですがそれは空洞ではありません。正体は分子の雲で、ガスとチリが遠方の光を遮っているだけです。

 「Stellarium」という夜空のシミュレーションが出典であるとある画像で、火星の地表から見た地球であると述べられているものもあります。  ですが、それも嘘で、シミュレーションによるものです。

 満月の隣に映る日没といった、ありえない地平線の画像もあります。そうした画像が大量に出回っているので、それをリアルタイムで追跡して、指摘するTwitterアカウントまで出てきたほどです。今までで一番ありえないと思った話は? どれもありえません。ある日になると、火星は月と同じくらい大きく見えるという話とか。

 少し前には、惑星が整列して、地球の重力が変化するという話もありました。その間、束の間だけ私たちは軽くなるっていうんです。物理的に普通にありえないことなので、とにかく奇妙でした。

 それからプラズマ宇宙学というものもあります。重力は宇宙で大したことではなく、電磁気的な力こそが重要だというのです。

 ごく少数の異端物理学者らの独自研究で明らかになった、新しい物理学理論なのだとか。私のメールボックスにはそうしたものがたくさん送られてくるので、「独立系理論家」という専用フォルダに分けてあります。

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宇宙に関する虚偽情報は有害ですか?  嘘を目にして、それを信じてしまうという点ではそうでしょう。

 物理学や天文学の話の場合、間違っているのに本当だと信じられてしまうものが多い気がします。

 のちにそれが一般に受け入れられた説ではないことを知る。専門家によるとそれは間違っているらしい。

 するとその時点で、それを間違いだという専門家の話を信じるか、さもなければ専門家が嘘をついていると思うか、どちらかを選ばねばならなくなります。

 もし専門家が嘘をついていると思うのなら、その人は陰謀論に傾きます。他にどんな嘘があるのだろうか? なぜ嘘をつく必要があるのか? 黒幕は誰なのか? と考えねばならないからです。

 地球が平面だとする陰謀論もそれです。こんな話はあらゆる天文学者が嘘をついていると思わなければ、信じられないようなことです。

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 もし天文学者全員が嘘をついているのならば、その背後に陰謀があって、お互いに示し合わせているはずだ。

 ならば、他にも陰謀があって、それを操る世界的な首謀者がいるに違いない、となる。そこまで行くと、どれも同じように見えてきます。

 これは重力を盲目的に信じない人たちが陥る、危険な結末です。

 そうした嘘にのめり込むと、正真正銘の陰謀論を信じるようになってしまう。だから、ただの嘘が拡散されて、無批判に広く信じられるようになるのは非常に困ったことだと思うのです。

 一部の人たちは、不思議の国のアリスのような超現実に陥ってしまうのです。なぜ虚偽情報が拡散されてしまうのか? 宇宙科学の虚偽情報が拡散されるのは、多くの場合、それが嘘だと知らないからだと思います。

 ソースを調べるスキルがないどころか、それを気にもしない人たちは大勢います。ただ格好いいからといった理由で動画をシェアし、その動画の出どころを確認したりはしない。

 元のツイートにフェイクだと返信する人がたくさんいても、それを読むこともない。

 Googleで検索することもない。ほとんどの場合、ただいい感じだからという理由で共有するのでしょう。それが嘘だと知らないままに。

 どの陰謀論でもそうなのですが、それにのめり込むとき、人は秘密の情報というところに熱中しているのです。

 陰謀論が魅力的なのは、ほとんどの人が知らない極秘情報を自分だけが知っていると思わせるからです。

 地球平面説や月着陸の捏造説もそうです。だから人は陰謀論に惹きつけられます。

 誰かがとんでもない秘密に気づいたと思えば、すぐにのめり込むことでしょう。物理の教科書が正しいなんてありきたりな説明では満足しなくなる。それでは退屈ですから。

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宇宙に関するデマ情報の対処法 誤解を解こうとはそれほど思っていません。どの程度の効果があるかわかりませんから。それに、それはちっとも報われないことでもあります。

 信奉者に絡まれるし「なぜ私たちの楽しみを台無しにするのか?」などと言われることもある。いいことなんて何もない。

 いくつかの研究によると、間違いを指摘すると、たとえそれで嘘が証明されたとしても、人は間違いの方を覚えているのだそうです。虚偽情報を強化しないよう、そう示すのはとても難しいことなんです。

 私は正しい情報をシェアしようとしています。それを中立的な態度でシェアしようとしている。

 質問されたときや、誤解されたりしているようなときは、馬鹿だから間違ったのだなどと思わせないよう、誤解を解こうと心掛けています。

 まずは「興味を持って、学ぼうとするのは素晴らしいですね」と伝えます。そして「もっと学ぶにはこうするといいですよ」と言うのです。

 骨の折れることではあります。みんな善意であることが大抵なので、間違いを指摘すると守りに入ってしまいますからね。

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一般の人が事実確認する方法  大切なのは出どころがどこか知ること。大勢の人が「驚異の科学」といった類の似非科学的なミームアカウントが伝える情報を共有してます。

 そうしたアカウントは、他のサイトの画像や動画を編集して、自動生成されたキャプションをつけているだけです。

 素材の出典は示されないし、投稿したコンテンツに関する情報リンクが貼られることもない。ただ画像や動画をシェアするだけです。そうした画像や動画は完全なでっち上げかもしれないし、誤解されたものかもしれない。

 私はそうしたものを絶対広めないよう勧めています。

 出どころがわからない以上、出典がない動画は決してシェアするべきではありません。出どころがわからなければ、シェアしない。

 それで物理学や天文学のひどいネタの8割をなくせるのではないでしょうか。びっくりするネタがあれば、まずは疑うべきでしょう。

 そしてフォローしている天文学者のツイートをチェックしてみる。彼らがその話題に触れていないのならば、おそらく嘘です。

References:The dark side of online space disinformation | Science | AAAS / written by hiroching / edited by parumo

 マック氏の言っていることは宇宙に限らす、他の科学系や医学系の陰謀論に関しても同様のことが言えるかもしれない。

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。