
いつかは年老いて死んでいくのが世の生き物の常だが、古来から人類が求めてやまないのが不老不死だ。不死はともかく不老に関しての研究は着実に進んでいる。
今回発表された研究では、細胞の初期化を誘導する「山中因子」という遺伝子転写因子を利用して、マウスの細胞を若返らせることに成功したという。それによる健康への悪影響も今のところ心配ないそうだ。
細胞の初期化を誘導する山中因子 山中因子は、「ES細胞(胚性幹細胞)」に発現する4種の「転写因子」(遺伝子の転写を制御するタンパク質)のことで、細胞の初期化を誘導する。
これまで「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」の作成に使われてきたもので、その名称は発見者であり、ノーベル生理学医学賞した山中伸弥教授にちなむ。
今回の研究では、山中因子を利用し、細胞内にある分子の時計をリセットしようと試みられた。
生物が老化すると細胞内の化学的パターン(エピジェネティクス・パターン)が変化するが、これを元に戻そうというのだ。
もともとこの方法は、成熟した細胞をどんな細胞にも変化できる「幹細胞」に戻すために利用されてきたものだ。
今回研究を行った米ソーク研究所の研究グループも以前、同様の方法によって、早老症のマウスを若返らせ、心臓や脳の機能を改善させることに成功している。
また昨年には、スタンフォード大学の研究グループが、老いたマウスの筋肉を若返らせることにも成功している。
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photo by iStock
マウスの若返りを確認、特に皮膚と腎臓に大きな効果 実験では、マウスを3グループに分けて、一定期間山中因子を投与した。
たとえば、生後15ヶ月のグループには7ヶ月、生後12ヶ月のグループには10ヶ月間にわたり山中因子が投与された。
これは人間で言えば、前者なら50~70歳、後者なら35~70歳の間、山中因子を投与され続けたようなものだ。また生後25ヶ月(人間の80歳に相当)のグループについては、1ヶ月間だけ投与が行われた。
その結果、多くの点で若いマウスのような特徴が見られたという。
エピジェネティックス・パターンから判断するなら、特に「皮膚」と「腎臓」で大きな若返り効果が発揮されたようだ。
たとえば、皮膚が傷つくと、皮膚細胞は増殖して傷口を塞ごうとする。
こうした機能は歳をとるとだんだん衰えてくるが、今回のマウスではこの機能に改善が見られた。また血中の代謝分子にも、老化したマウスで一般に見られる変化が生じなかったという。
なお、こうしたアンチエイジング効果は、7ヶ月間と10ヶ月間のどちらの投与期間でも発揮されたが、1ヶ月間だけ投与された高齢マウスでは確認できなかったという。
また実験の途中経過も分析されたが、興味深いことに、その効果は定着せず、「アンチエイジン効果の程度は、施術の期間によって決まる」と結論づけられている。
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photo by Pixabay
健康への悪影響も認められず 今回のマウスを使った実験の目的は、ただ若返り効果を調べるだけでなく、それによる健康への悪影響がないかどうかも確かめられた。
「狙いは、この方法を長期間利用しても安全であると証明することでした」と、研究グループの1人、ソーク研究所のプラディープ・レッディ氏は語る。
そして実際に、健康や行動への悪影響は確認されず、体重が減ることもなかったという。
マウスの神経細胞や血液細胞に異常が生じるようなことはなく、またがんの兆候もうかがえなかった。
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将来的には老化防止や病気の治療にも 研究グループのファン・カルロス・イスピスア・ベルモンテ氏は、「この方法を生涯ずっと行えば、正常な動物の老化を予防できると証明できて嬉しいです」と語る。
「この方法は、マウスでなら安全かつ効果的です。老化に伴う病気の予防になるだけでなく、バイオ医療の分野でも新しい武器になると期待できます。たとえば神経変性疾患のような病気であっても、細胞の機能や回復力を向上させて、組織や内臓を健康にできるかもしれません」
こうした成果を踏まえ、研究グループは今後、山中因子が特定の分子や遺伝子に与える影響をさらに調べ、それをうまく利用する方法を考案する予定であるという。また若返り効果の持続期間も調べるつもりであるとのことだ。
「最終的な目標は、古くなると衰えてしまう細胞の回復力と機能を取り戻し、ストレス・怪我・病気などに強くすることです」と、レッディ氏。「今回の研究は、少なくともマウスではそれを実現する道があることを証明しています」
その先にあるのは人間だ。人間にもこの方法で安全に老化予防ができるのなら、待ち望んでいた不老に一歩近づくのかもしれない。
[動画を見る]
Cell rejuvenation therapy safely reverses aging in mice
この研究は『Nature Aging』(2022年3月7日付)に掲載された。
References:Anti-aging molecules safely reset mouse cells to youthful states / written by hiroching / edited by parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
老化を止めるだけでなく、若返らせるところにまで来ている。
今回発表された研究では、細胞の初期化を誘導する「山中因子」という遺伝子転写因子を利用して、マウスの細胞を若返らせることに成功したという。それによる健康への悪影響も今のところ心配ないそうだ。
細胞の初期化を誘導する山中因子 山中因子は、「ES細胞(胚性幹細胞)」に発現する4種の「転写因子」(遺伝子の転写を制御するタンパク質)のことで、細胞の初期化を誘導する。
これまで「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」の作成に使われてきたもので、その名称は発見者であり、ノーベル生理学医学賞した山中伸弥教授にちなむ。
今回の研究では、山中因子を利用し、細胞内にある分子の時計をリセットしようと試みられた。
生物が老化すると細胞内の化学的パターン(エピジェネティクス・パターン)が変化するが、これを元に戻そうというのだ。
もともとこの方法は、成熟した細胞をどんな細胞にも変化できる「幹細胞」に戻すために利用されてきたものだ。
今回研究を行った米ソーク研究所の研究グループも以前、同様の方法によって、早老症のマウスを若返らせ、心臓や脳の機能を改善させることに成功している。
また昨年には、スタンフォード大学の研究グループが、老いたマウスの筋肉を若返らせることにも成功している。
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マウスの若返りを確認、特に皮膚と腎臓に大きな効果 実験では、マウスを3グループに分けて、一定期間山中因子を投与した。
たとえば、生後15ヶ月のグループには7ヶ月、生後12ヶ月のグループには10ヶ月間にわたり山中因子が投与された。
これは人間で言えば、前者なら50~70歳、後者なら35~70歳の間、山中因子を投与され続けたようなものだ。また生後25ヶ月(人間の80歳に相当)のグループについては、1ヶ月間だけ投与が行われた。
その結果、多くの点で若いマウスのような特徴が見られたという。
エピジェネティックス・パターンから判断するなら、特に「皮膚」と「腎臓」で大きな若返り効果が発揮されたようだ。
たとえば、皮膚が傷つくと、皮膚細胞は増殖して傷口を塞ごうとする。
こうした機能は歳をとるとだんだん衰えてくるが、今回のマウスではこの機能に改善が見られた。また血中の代謝分子にも、老化したマウスで一般に見られる変化が生じなかったという。
なお、こうしたアンチエイジング効果は、7ヶ月間と10ヶ月間のどちらの投与期間でも発揮されたが、1ヶ月間だけ投与された高齢マウスでは確認できなかったという。
また実験の途中経過も分析されたが、興味深いことに、その効果は定着せず、「アンチエイジン効果の程度は、施術の期間によって決まる」と結論づけられている。
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健康への悪影響も認められず 今回のマウスを使った実験の目的は、ただ若返り効果を調べるだけでなく、それによる健康への悪影響がないかどうかも確かめられた。
「狙いは、この方法を長期間利用しても安全であると証明することでした」と、研究グループの1人、ソーク研究所のプラディープ・レッディ氏は語る。
そして実際に、健康や行動への悪影響は確認されず、体重が減ることもなかったという。
マウスの神経細胞や血液細胞に異常が生じるようなことはなく、またがんの兆候もうかがえなかった。
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将来的には老化防止や病気の治療にも 研究グループのファン・カルロス・イスピスア・ベルモンテ氏は、「この方法を生涯ずっと行えば、正常な動物の老化を予防できると証明できて嬉しいです」と語る。
「この方法は、マウスでなら安全かつ効果的です。老化に伴う病気の予防になるだけでなく、バイオ医療の分野でも新しい武器になると期待できます。たとえば神経変性疾患のような病気であっても、細胞の機能や回復力を向上させて、組織や内臓を健康にできるかもしれません」
こうした成果を踏まえ、研究グループは今後、山中因子が特定の分子や遺伝子に与える影響をさらに調べ、それをうまく利用する方法を考案する予定であるという。また若返り効果の持続期間も調べるつもりであるとのことだ。
「最終的な目標は、古くなると衰えてしまう細胞の回復力と機能を取り戻し、ストレス・怪我・病気などに強くすることです」と、レッディ氏。「今回の研究は、少なくともマウスではそれを実現する道があることを証明しています」
その先にあるのは人間だ。人間にもこの方法で安全に老化予防ができるのなら、待ち望んでいた不老に一歩近づくのかもしれない。
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Cell rejuvenation therapy safely reverses aging in mice
この研究は『Nature Aging』(2022年3月7日付)に掲載された。
References:Anti-aging molecules safely reset mouse cells to youthful states / written by hiroching / edited by parumo
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